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  鳥インフルエンザ- アジアにおける状況:アヒルの果たす役割の変化(抄訳)

    2004年10月29日 WHO(原文


鳥インフルエンザ(H5N1)の家禽での集団発生がおこっている国々は、家禽として飼われているアヒルが他の家禽へのウイルスの伝播に関して、そしてもしかするとヒトへの感染伝播においても、重要な役割を果たすようになったかもしれないことに注意しておく必要がある。

新たな実験室研究の結果によると(「アヒルにおけるH5N1亜型インフルエンザウイルスの基礎研究:主要結果」)、2003年のH5N1ウイルスに感染したアヒルに比べると、2004年のいくつかのウイルス株に感染したアヒルのウイルス排泄量はより増加しており、排泄期間はより長くなっていることが示されている。そのアヒルの大多数が、無症状でウイルスを排出している。

またこの研究結果によると、過去の集団発生における高病原性鳥インフルエンザウイルスに比して、最近のH5N1ウイルスは環境中で数日間も長く生息できるという。

この研究は、健康に見えるアヒルが排泄するウイルスの量は、明らかに重篤な鳥インフルエンザに罹患しているニワトリが排泄する量に近いと報告している。これはつまり、アヒルは、ニワトリにおいてきわめて病原性の高いH5N1ウイルスの、“静かな”感染源(reservoir)となっていることを示している(注1)。

現在のところ、ヒトのH5N1感染例が、無症候性のアヒルとの接触によるとする証拠はない。しかし、この実験結果は、病気の、または死んだニワトリとの接触がみとめられないヒトの感染例があることがわかってきたときに、ちょうど報告された。

ヒトの感染例を今後予防するという視点からいうと、アヒルが感染し、長期間ウイルスを排泄しながら、われわれが気づき予防策を取ることができるような、「警戒徴候(warning signal)」、つまり明らかな鳥インフルエンザの兆候や症状を示さないということは、公衆衛生上の大きな懸念材料である。特に、すでに感染の広がっている国々の農業地域で、アヒルやニワトリの放し飼いが行われ、しばしば両者が混在し、飲み水を共有している地域において、この心配はもっとも大きなものである。

この新しい知見は、中国南部で分離されたH5N1ウイルスの解析にもとづいており、アジアの特定の地域において、このウイルスのもっとも病原性の高い形での出現と維持にアヒルが中心的な役割を果たしたとする最近の証拠につながるものである(注2)。

アヒルの役割の変化についてのこの知見は、アジアの特定の地域においてH5N1ウイルスがニワトリやマウス(ほ乳類の実験モデル)における病原性を高め、宿主の範囲をネコ科など、これまで感染しないと考えられてきたほ乳類に広げているという最近の知見にも関連してくる。


鳥インフルエンザ流行国に対する公衆衛生上の勧告

− ヒトの感染例の調査においては、病気の、または死んだニワトリのみならず、健康にみえるアヒルとの接触を感染リスクとして含むべきである

− 「高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の 感染の広がりがみられる地域に居住する人々への注意点」は明らかに病気のニワトリと同様に、健康に見えるアヒルに対する注意を含むべきである

− アヒルはペットとして飼われるべきではなく、また家の中に入れるべきではない

− 人間の飲料水は、飼育されているアヒルが飲むような開放型の池から引くべきでは無く、また、これらの家禽との接触がないように保存しなくてはならない

− 適切に調理された(「食品の安全性:アジアにおけるヒトと鶏の鳥インフルエンザA(H5N1)」英語)アヒルの肉および卵は、ヒトの健康へのリスクにはならない。

− 調理前に家庭で行うと殺および下準備(「アジアの地方・農業地域における鳥インフルエンザA(H5): 食の安全への配慮」英語)によって、かなりのウイルスへの暴露がおこるが、このリスクへの対処が必要である。

WHO、FAO、そしてOIEは、H5N1ウイルスの伝播サイクルにおいて、アヒルの果たす役割の変化が、家禽の間の鳥インフルエンザの対策と、これ以上のヒト感染例を予防するための対策を複雑にする可能性があるため、それに対して適切な対応が必要であることを認識している。

アジアのアヒルにおける無症候性感染率に関する研究が早急に必要である。それにより、見かけ上健康なアヒルに曝露して発生するヒト症例の防止に、有効な対策を取るための情報が得られる。

FAOとOIEは、家禽間の鳥インフルエンザ集団発生制御のための長期戦略の策定において、アヒルが果たす役割の持つより大きな意味を考慮に入れている。H5N1ウイルスは現在アジアの特定の地域において蔓延しており、特に農村部における鳥インフルエンザの対策とコミュニティにおける暴露を減少させるためには、飼育方法に大きな改善が必要となってくるであろう。

鳥インフルエンザ予防と対策には、動物の間のサーベイランスが重要であり、適切な支援が必要である。

FAOとOIEは、アジアにおける家禽の鳥インフルエンザ集団発生への対応に関する総合的なガイドラインを先に発表した(”comprehensive guidelines ”)。

両機関は、アヒルにおけるH5N1ウイルス感染の疫学と、感染対策におけるワクチンの使用に関しての研究を現在行っている。

注1)過去においては、家禽間の高病原性鳥インフルエンザの集団発生は、おそらく野鳥が運んできた低病原性のウイルスが最初に導入されることによって始まっていた。その後、低病原性ウイルスはごく軽度の疾患を引き起こすものから、100%に達する致死率をもつ高病原性鳥インフルエンザを引き起こすウイルスに変異するまでに数ヶ月かかっていた。H5亜型およびH7亜型のウイルスのみが高病原性鳥インフルエンザを起こすウイルスに変異できる。しかし、現在見られる集団発生では、無症候性のアヒルが、高病原性のウイルスを直接家禽に持ち込んでいる。

注2)Li KS, Wang J, Smith GJD et al. Genesis of a highly pathogenic and potentially pandemic H5N1 influenza virus in eastern Asia. Nature; 430 (8 July 2004): 209-13. 。


(2004/11/1 IDSC掲載)

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