国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)による流行状況−更新3

          
2009年5月5日


国立感染症研究所 感染症情報センター

2009年5月5日午前9時00分(日本時間)現在、WHOからの発表情報、国際会議における情報、米国CDCからの発表情報、各国政府からの声明などから、以下に現状をまとめる。ただし、現時点では系統的に集められたデータに乏しく、記述的な情報も含まれるため、現時点での暫定的なまとめであり、今後科学的なデータがでるにつれて変化していくものである。

疫学状況

 WHOによると、2009年5月5日午前9時00分(日本時間)現在、世界中で21カ国において新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)感染の確定例1,085例が報告されており、内訳はメキシコ(590:メキシコ政府によると727)、米国(286)、カナダ(101:カナダ政府によると140)、スペイン(54:スペイン政府によると57)、英国(18:英国政府によると27)、ドイツ(8)、ニュージーランド(6)、フランス(4)、イスラエル(4:イスラエル政府によると3)、イタリア(2)、エルサルバドル(2)、オーストリア(1)、オランダ(1)、スイス(1)、香港(1)、デンマーク(1)、韓国(1)、コスタリカ(1)、アイルランド(1)、コロンビア(1)、ポルトガル(1)である。死亡例はメキシコから25例(死亡率:4.2%)、米国から1例(死亡率:0.3%)である。

これらのうち、国内(地域内)での感染伝播を、「確定例が報告されていて、かつ渡航歴のなく、その感染源を追うことのできない確定例が1例以上報告されている地域」とすると、報告されている限りでは、米国1)2)(本土のみで、ハワイ、グアム、サイパン、アラスカ等は含まれない)、メキシコ3)およびカナダ4)が、地域内感染伝播が存在している地域と考えられる。

国内で人-人感染が確認されているのは、メキシコ、米国、カナダに加え、英国、ドイツ、スペインの計6カ国である。スペインでは確定症例が57例と急速に増加したが、5月4日現在、ECDCはEUとEFTA地域で、維持的な人-人感染の報告はないと報告している。すなわち、EU内の各国内における人-人感染はこれまで合計8症例が確認されているが(ドイツ2例、スペイン3例、英国3例)、いずれも疫学的リンクが依然追える、とされる。EUとEFTA地域ですべての確定症例は軽症で死亡者はない。また、韓国の1例は輸入例である。韓国では接触者の中で、人-人感染の可能性が高い者があるとのメディアからの情報もある。

1)       MMWR April 24, 2009 / 58 (Dispatch);1-3による。

2)       ニューヨーク市当局より高等学校によるアウトブレイクと他の学校への波及が報告されている。

3)       メキシコ当局より地域的な流行が報告されている。

4)       カナダ保健省による。

尚、一例でも確定例が出ている国では、感染のリスクが存在するが、地域内感染伝播の認められている地域では、そのリスクは高くなっていると考えられる。インフルエンザ症状のある患者の診断に当たっては、現状の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)の状況では軽症例や無症候性感染も含まれることが考えられ、かつ発症の一日前から感染性があることを考えれば、更に広い範囲で感染伝播が見られる可能性もあり、また航空機内やトランジットの空港などで偶然感染することもあり得るので、臨床所見と検査所見をあわせた総合的な判断が必要である。

ウイルス学的状況

今回の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)のウイルス学的な解析においては、本ウイルスは、ブタ、ヒト、トリの3つのウイルスが遺伝子再集合をおこした、Triple Reassortantが更にClassical Swine H1N1とReassortmentを起こしたものと考えられており、現在のすべての遺伝子分節はブタ型の特徴を表しており、ヒト型への適応はみられていないとされている

メキシコにおける臨床状況

5月5日現在、メキシコにおける新規患者数は減少しつつあるものの、メキシコ市長の会見においては、5月3日に同市内で新たに入院した患者数は12人とのことで、患者発生自体は続いている模様である5)。4月30日のMMWRの記事6)によると、メキシコにおける新型インフルエンザウイルスの検出は3月17日以降であり、発生より8週目に入っているものと考えられる。この詳細については、MMWRの日本語訳として当ウェブサイトに掲載されている文書7)を参照されたい。

5月3日までに確認されている22名の死亡例(最終の死亡は4月29日)について、メキシコ当局5)などからの情報によると、以下のようになる。死亡者の15名が女性、7人が男性である。死亡者のうち、21〜40歳の年齢が14人あり、64%を占めた。16人がメキシコ市、4名がメキシコ州、1名がオアハカ州、1名がトラスカラ州の居住であった。死亡原因の一つとして医療機関にかかるまでの日数の違いの影響が推測されている。ある観察では、死亡例では平均7日間であったのに対して、回復した症例では、平均3日間であったという。

5)  在メキシコ日本大使館ホームページより(http://www.mx.emb-japan.go.jp/index-jp.htm)。

6) MMWR April 30, 2009 / 58 (Dispatch);1-3による。

7) http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/MMWR09_1.html

ニューヨーク市における臨床状況

5月4日現在、米国で最も多い63例を報告したニューヨーク市における状況は、市当局により、5月2日に示されている8)。それによると、5月2日現在、新型インフルエンザはコミュニティーレベルで拡大しているものの、季節性のインフルエンザを越える重症度を持って現れているわけではない、との指摘がなされている。1000人以上にも上る疑い例については、複数の高校における集団発生を反映していることから、その殆どが健康な若者であり、米国全体の発症者の年齢が若年層に偏っていることに寄与している。現在までのところ、新型インフルエンザによる重症例はなかった。また、新型インフルエンザの臨床症状は、季節性インフルエンザに類似しており、44例の確定例では、発熱(96%、平均39.0℃、37.2-40.0℃)、咳(98%)、咽頭痛(82%)、筋肉痛(80%)、頭痛(82%)、悪寒(80%)、疲労感(82%)、鼻汁(82%)といったものであり、95%の患者が発熱と咳/咽頭痛を伴った。下痢(48%)や悪心(55%)、腹痛(50%)を呈した者も観察された。インタビュー時点では、37例(84%)が症状は安定あるいは改善、3例(7%)が悪化傾向(うち2例は後日改善)、4例(9%)は完全に回復、1例が失神のため入院したが一晩の経過観察ののち退院している。抗インフルエンザウイルス薬は、ハイリスク者である小児、高齢者、慢性的な基礎疾患を持つ者を治療(確定例などに明らかな曝露が有る場合には予防も)する上で特に重要であることが示唆される。高い感染力が、集団発生が起こった高校における調査で示されている8)。この調査では、約2000人の全校生徒中、3分の1相当の生徒が期間中に何らかの症状を訴えたことが明らかとなっており、さらにそれら有症者の30%程度の家人が、自宅にて何らかのインフルエンザ様症状を発症していた。

8)  New York City Department of Health and Mental Hygieneによる




(2009/5/5 IDSC 更新)
 * 情報は日々更新されています。各ページごとにブラウザの「再読み込み」「更新」ボタンを押して最新の情報をごらんください。

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.