国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況−更新4

          
2009年5月9日

国立感染症研究所 感染症情報センター

  2009年5月9日午前9時00分(日本時間)現在、WHOからの発表情報、国際会議における情報、米国CDCからの発表情報、各国政府などの情報から、以下に現状をまとめる。ただし、現時点では系統的に集められたデータに乏しく、記述的な情報も含まれるため、現時点での暫定的なまとめであり、今後科学的なデータが出るにつれて変化していくものである。


全体の疫学状況

  WHOによると、2009年5月9日午前9時00分(日本時間)現在、世界25カ国において新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)感染の確定例2,500例が報告されており、内訳はメキシコ(1204:メキシコ政府によると1364)、米国(896:米国政府によると1639)、カナダ(214:カナダ政府によると242)、スペイン(88:スペイン政府によると93)、英国(34:英国政府によると39)、ドイツ(11)、イスラエル(7)、ニュージーランド(5)、フランス(12)、イタリア(6:イタリア政府によると7)、ブラジル(4)、韓国(3)、エルサルバドル(2)、オランダ(3)、香港(1)、オーストリア(1)、スイス(1)、デンマーク(1)、コスタリカ(1)、アイルランド(1)、コロンビア(1)、ポルトガル(1)、グアテマラ(1)、スウェーデン(1)、ポーランド(1)である。死亡例はメキシコから44例(CFR:3.7%)、米国から2例(CFR:0.2%)である。また、カナダ政府は1例の死亡(CFR:0.4%)を発表しているが現時点でWHOの更新情報には反映されていない。新たな発生国として、5月8日にブラジルが加わった。

  これらのうち、国内(地域内)での感染伝播を、「確定例が報告されていて、かつ渡航歴がなく、その感染源を追うことのできない確定例が1例以上報告されている地域」とすると、報告されている限りでは、米国1)2)(米国内の状況については後述)およびメキシコ3)(メキシコ国内の状況については後述)において、地域内感染伝播が存在している地域があると考えられる。カナダにおいては患者数の増加と共に、アルバータ州4)などから地域内伝播を疑わせる情報が伝えられている(カナダ国内の状況については後述)。国内で人-人感染が確認されているのは、上記のメキシコ、米国、カナダに加え、英国、ドイツ、スペイン、韓国の計7カ国である。スペインでは確定症例が88例と急速に増加している。5月8日現在、ECDC(European Centre for Disease Prevention and Control)は欧州連合(European Union: EU)および欧州自由貿易連合(European Free Trade Association: EFTA)地域内の3カ国における22例の人-人感染を報告しているが(ドイツ2例、スペイン9例、英国11例)、5月8日08時現在(CEST)、疫学的リンクが切れた維持的な人-人感染(地域内伝播)は記録されていない、としている5)

 1) MMWR April 24, 2009 / 58 (Dispatch);1-3、ハワイ州DOHホームページ情報を含む。
 2) ニューヨーク市当局より高等学校によるアウトブレイクと他の学校への波及が報告されている。
 3) メキシコ当局より地域的な流行が報告されている。

 4) カナダ・アルバータ州ホームページ情報などによる。
 5) ECDC situation report update 8 May 2009、による。


  尚、一例でも確定例が出ている国では、感染のリスクが存在するが、地域内感染伝播の認められている地域では、そのリスクはより高くなっていると考えられる。インフルエンザ症状のある患者の診断に当たっては、現状の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)の状況では軽症例や無症候性感染も含まれることが考えられ、かつ発症の一日前から感染性があることを考えれば、更に広い範囲で感染伝播が見られる可能性もあり、また航空機内や乗り継ぎの空港などで偶然感染することもあり得るので、臨床所見と検査所見をあわせた総合的な判断が必要である。


ウイルス学的状況

  今回の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)のウイルス学的な解析においては、本ウイルスは、1930年代以降に発見された米国由来のブタインフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)、トリインフルエンザウイルスの3つのウイルスの内部遺伝子が遺伝子再集合をおこしたTriple Reassortantに、更にアジア-ユーラシア由来のブタインフルエンザウイルスの遺伝子分節が含まれている。この遺伝子がどのようにメキシコまで到達したかは不明である。現在のすべての遺伝子分節はブタ型の特徴を表しており、ヒト型への適応はみられていないとされている。3月以降に分離された30株ほどのウイルス遺伝子を調べた結果、99%の遺伝子が同一であったことから、変異の速度が速いRNAウイルスとしての性質を考えた場合、最近発生したウイルスであると推定されている。これまでに複数の国の患者から分離されたウイルスは現時点では非常に類似していると考えられ、引き続きノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性を維持している。


わが国における状況

  5月9日午前9時までの状況として、前日8日にカナダ(オンタリオ州)から米国(デトロイト)経由で帰国した大阪の高校生男性2名・40代男性教師1名が、迅速検査でインフルエンザA型陽性となった。本日にかけて国立感染症研究所において行われた検査において、新型インフルエンザ(swH1)陽性となり、新型インフルエンザ感染が確定した。これまでのところ、症状は発熱・咳である。現時点で、学校関係者33名・乗客14名・乗務員2名に10日間の停留対応が検討されているところである。

  9日午前10時現在で、感染症発生動向調査に関連して疑い症例調査支援システムに入力された情報では、新型インフルエンザ疑似症の報告は、誤入力1例を除き、全部で13例であった。結果については約半数が未入力であるが、疑似症については最新の1例を除くすべての例で、いずれも地方衛生研究所あるいは国立感染症研究所において新型インフルエンザは否定されたとの情報を得ている。なお、このシステムへは、検疫所からの情報は含まれない。今回の成田空港における確定例以前には、全国の検疫所から、これまでにインフルエンザ迅速検査の対象となった者のうち、4例の検体が国立感染症研究所に持ち込まれていたが、新型インフルエンザウイルスは検出されていなかった。

  今回の検疫での検知によって、少なくともこれらの例から国内拡大を防ぐあるいは時間を稼げることができたことは、新型インフルエンザの防疫対応として、検疫の有用性を示すものである。しかしながら、今後(無症候性感染者を含め)各国で患者数が増加し、地域における感染伝播が拡大し、国際間における伝播のリスクがますまず増大すると、同様な検疫体制の維持には、かかる膨大な努力に比して、得られる効果がますます小さくなることが懸念される。また、ウイルスの病原性が季節性インフルエンザと同等に近いであろうと評価される点にも注意が必要である。すなわち、国内で季節性インフルエンザと混在する形で新型インフルエンザウイルスの小流行や伝播が発生していても、現在の検疫に重きを置いた体制では検出されないリスクがある。さらに、国内において鑑別の第一段階に汎用されているインフルエンザ迅速検査については、103〜5pfu/mL以上のウイルス感染力価が必要と考えられており、ウイルス分離あるいはRT-PCR法に比して、1000倍以上のウイルス量が必要とされている。また、咽頭ぬぐい液の使用ができないキットもあり、病初期には、陰性になる場合も多い。検体の採取方法や採取時期にも、十分な注意が必要である。米国CDCは、迅速検査について新型インフルエンザウイルスに対する指標としての情報が十分では無いことを指摘している。1回のみの迅速診断でスクリーニングとせざるを得ない現在の検疫体制、および発症の1日前から感染性を有すると思われる臨床経過上、検疫時に診断不可能な新型インフルエンザ感染患者が生じることは避けられない。一方、国内では各地方衛生研究所における検査体制が整備され、医療機関の受け入れ体制、治療薬の確認等も急速に進みつつあるところである。以上により、今回の検疫における対応を評価すると共に、特に国内の地域における発生に備えて、新型インフルエンザへの対応を徐々に国内体制の強化にシフトさせるべきであると考えられる。日常診療における新型インフルエンザを含む季節性インフルエンザ対応としての診療・検査体制の強化、重症者の対応などを検討すべき時期に差し掛かっている、と考えられる。


米国における状況

  5月8日午前11時(米国)の時点では6)、1,639例の確定例が43の州より報告されている(米本土に加えハワイ州を含むがグアム、サイパン、アラスカ等を含めない)。地域内伝播に関しては正確なアセスメントの情報がないが、多くの州で確定症例数が増加している。また、急に確定症例数が増加した州では、その州において確定検査が実施可能となったからであるとも考えられるので、このような症例数の増加が必ずしも症例の増加を反映していない可能性についても考慮する必要がある。また、Minnesota, North Carolina, New Hampshireの3州などでは、検査対象者を入院患者、調子の悪い医療従事者、インフルエンザサーベイランスで検出され治療を受けた者に限定するという方針に切り替えている(絞っている)との情報がある。すなわち、既に広範な人-人感染の状況が発生している中で、個々の症例を正確に同定することが、国内における流行を追跡する上でそれほど有用ではない、との判断があったからと考えられる。このような要因も今後の米国における患者発生数を見る上で重要な情報になるものと考えられる。

  確定例は生後3ヶ月から81歳まで分布し、年齢中央値は16歳である。症例のうち、18歳未満が58%であった。確定例のうち、35例(16州に分布)が入院し、うち2例が死亡している。最近報告された死亡例は、テキサス州に在住で、基礎疾患を有していた妊娠8ヶ月の女性(33歳)であった。帝王切開により健康な女児を出産して死亡している。確定例において入院した症例の年齢は生後8ヶ月から53歳で、年齢中央値は15歳であり、症例全般と同様である。基礎疾患について詳細な情報を知りえた13例のうち7例(54%)が、重度の感染の危険性がより高いと考えられた。以上の情報については、MMWR May 8, 2009/Vol. 58/No. 17においても述べられており、参照されたい。

 6) CDC.H1N1 Flu (Swine Flu) ウェブサイトより。


カナダにおける状況7)

  5月8日までに、累積で10例以上の症例を報告しているのは、Ontario(61)、British Columbia(60)、Nova Scotia(56)、Alberta(42)、Quebec(15)の5州であり、特にウイルスの活動性が高い可能性がある。他にPrince Edward Island(3)、New Brunswick(2)、Saskatchewan(2)、Manitoba(1)を加えた9州においては、感染伝播のリスクに対する注意が必要である。カナダ公衆衛生局(Public Health Agency of Canada, PHAC)のホームページ上の流行曲線を見ると、一日あたり十数例の報告があった42025日頃をピークに流行は減少傾向にあると思われ、把握されている発症日で最も遅いものが5月3日である。しかし、今回の帰国者における確定例検出の情報などから推測すると、軽症例や無症候性感染を含め、カナダ国内における感染は依然発生している可能性があり、さらなる情報収集および評価が必要である。

 7PHAC http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/swine-porcine/surveillance-eng.php)より。


メキシコにおける状況8)

  55日までに報告された確定例1112例について、メキシコ保健省疫学部門において情報が評価されている。1112例中の死亡例は42例であり、CFR3.8%である。患者に占める男女比はほぼ11で、年齢中央値は共に23歳であった。これまでに確定患者の報告があったのは29州からである。5月5日現在、人口10万人当たりの疑い例を含む総患者発生数が10を超えている地域は、高い順からDistrito Federal (47.64), San Luis Potosi (32.07), Tlaxcala (19.39), Tabasco (17.02), Colima (15.31), Durango (14.45), Hidalgo (14.45), Aguas Calientes (14.27), Michoacan (13.40), Baja California Sur (13.26), Zacatecas (12.47)と報告されている。これらの地域は他と比較して著しく高い発生率となっており、注意が必要である。なお確定例について、新規入院患者数の推移は、100人以上を記録していた4月20日〜27日頃をピークに減少の一途を辿っており、5月2日の時点では10例程度である。全体として患者発生は減少傾向にあることが予想される。

 8) メキシコ保健省ヒトH1N1インフルエンザbulletin(5月5日報告)より。 


(2009/5/9 IDSC 更新)

 * 情報は日々更新されています。各ページごとにブラウザの「再読み込み」「更新」ボタンを押して最新の情報をごらんください。

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.