国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



パンデミック(H1N1)2009の臨床像

          
2009年9月1日
          
国立感染症研究所感染症情報センター
感染性

感染伝播は基本的に飛沫感染および接触感染によると考えられている。ただし、気管挿管など限られた場面においてエアロゾル発生による飛沫核感染(空気感染)をきたす可能性は否定できない。感染性のある時期は発症1日前から発症後7日までと考えられている。ただし、解熱後は感染性が低下すると考えられている。米国では白血病の10代男性が発病後1か月以上にわたりRT-PCRでウイルス遺伝子が検出された例が報告されており1)、小児や免疫不全者ではより感染可能期間が長い可能性が示唆されている。結膜からの感染や便を介しての感染伝播に関しては、主たる感染経路ではないものの、否定はされていない。

潜伏期間

潜伏期間は1〜7日と考えられているが、2009年5月の大阪事例の調査2)ではより短い2〜4日程度(n=5)であり、米国CDCも恐らくは1〜4日としている。

症状

症状は基本的には季節性インフルエンザと同様の症状をきたす。多くの症例で38℃以上の発熱を認め1〜5日持続するが、無症状の症例も報告されている3)。発熱の前後数日の間に咳や咽頭痛が認められていた。国内事例である神戸、大阪、福岡と米国からの入院例、メキシコからの肺炎・呼吸不全例の症状の比較を表1に示す。


表1 国内事例と外国の報告での症状の割合(%)

神戸5)

大阪2)

福岡

(15歳以下)6)

米国7)

メキシコ (肺炎・呼吸不全患者8)

年齢中央値

(範囲)

17歳

(5歳-60歳)

16歳

(12歳-53歳)

11歳

(2歳-15歳)

27.5歳

(27日-89歳)

38歳

(9か月-61歳)

発熱38℃

87.8 (n=49)

89.5 (n=105)

94.7 (n=57)

97 (n=30)

100 (n=18)

79.2 (n=48)

82.7 (n=104)

87.7 (n=57)

77 (n=30)

100 (n=18)

咽頭痛

71.4 (n=49)

65.4 (n=104)

50.0 (n=56)

33 (n=30)

 

鼻汁鼻閉

53.2 (n=47)

59.6 (n=104)

 

30 (n=30)

28 (n=18)

頭痛

52.1 (n=48)

52.1 (n=96)

 

17 (n=30)

22 (n=18)

嘔気

24.5 (n=49)

 

 

 

嘔吐

12.2 (n=49)

5.3 (n=94)

46 (n=30)

 

下痢

14.2 (n=49)

19.8 (n=96)

16.1 (n=56)

10 (n=30)

22 (n=18)

腹痛

6.6 (n=91)

 

 

筋肉痛

55.1 (n=49)

19.8 (n=96)

33 (n=30)

44 (n=18)



重症例や死亡例のリスク因子、特徴

国内で8月25日までに入院を要した症例427例の情報9)によると、年齢は5〜19歳が249名(58.3%)で最も多く、性別は男性241名(56.4%)、女性186名(43.6%)であった。基礎疾患を持つ者(妊婦3名含む)は180名(42.2%)おり、そのうち慢性呼吸器疾患(喘息含む)が95名(52.8%)であった。急性脳症と診断されたものが8名(1.9%)、人工呼吸器の使用は20名(4.7%)であった。

合併症発症のリスク因子として米国CDCは季節性インフルエンザに準じて表2のように、また危険な兆候を表3のように提案している。実際の重症例に関しては、現在までに存在する2つの報告の要旨を表4に示す。ミシガン州からの報告での"肥満"を除くと、どちらの報告でも基礎疾患のない重症例が少なからず見受けられた。メキシコからの報告では入院した肺炎例の中でみると死亡例では腎不全及び輸液に反応不良のショックを呈することが多かったとされている。

大多数の患者が軽症であるにもかかわらず、一部の患者で重症化する理由はよくわかっていない。軽症者と重症者から分離されたウイルスはこれまでのところ同一である。

表2 米国CDCが定める合併症併発に関したハイリスクグループ10)


5歳未満の乳幼児(特に2歳未満の場合にはリスクが高い)

65歳以上の高齢者

以下の基礎疾患をもつもの

 ・慢性呼吸器疾患(喘息を含む)                             ・心血管系疾患(高血圧は含まない)
 ・腎疾患                                                          ・肝疾患                                   
 ・血液疾患(鎌状赤血球症を含む)                         ・神経・神経筋・代謝性疾患(糖尿病)
 ・妊婦

免疫抑制状態にあるもの(HIV感染症を含む)

19歳未満で長期アスピリン治療をうけているもの

介護施設、慢性期療養施設に入所しているもの



表3 米国CDCが提唱する危険な兆候11)

成人

小児

インフルエンザ様症状改善後の再発熱や咳の悪化

激しい、持続性の嘔吐

呼吸困難や息切れ

頻呼吸や呼吸困難

胸部や腹部の痛みや圧迫感

蒼白、チアノーゼ

突然のめまい

水分摂取不良

混迷

意識あるいは意思疎通不良

 

機嫌が悪く、抱っこされることを嫌がる


表4 重症入院患者について

米国ミシガン州からの報告12)

メキシコからの報告8)

症例数

10例

18例

年齢

中央値46歳 (範囲21歳-53歳)

中央値38歳 (9か月-61歳)

性別

男9 女1

男9 女9

基礎疾患

3例

喘息2、肉芽腫性慢性肺疾患1

(他に肥満9例/9例:BMI≧30、
内7例 BMI≧40)

8例

高血圧3、
糖尿病3(高血圧合併1)、
喘息2、
閉塞性無呼吸症候群1

発症から受診・入院

中央値6日 (範囲1-7日)

中央値6日 (範囲4-25日)

発症からICU入室

中央値8日 (範囲5-16日)

発症から治療

中央値8日 (範囲5-12日)

11例 入院時、
3例 入院後2〜10日
4例 治療なし

発症から死亡まで

17日-30日

中央値14日(範囲10〜23日)

呼吸状態・管理

 

人工呼吸器 10例/10例

人工呼吸器 12例/18例
(10例は入院後24時間以内)

2例 ECMO、10例気管切開

合併症

 腎不全

6例で持続透析

6例

 ショック

9例で昇圧剤使用

9例でノルエピネフリン使用

 多臓器不全

7例

7例

 DIC

0例

0例

 肺塞栓

5例

 

 その他

 

2例凝固系亢進
(1例で透析回路内凝固、
1例で両側大腿静脈深部静脈血栓)

4例で人工呼吸器関連肺炎

細菌感染の証拠なし
(全例入院時から抗菌薬使用)

細菌感染の証拠なし
(3例で入院後1〜2日の間に抗菌薬開始)

死亡

3例

7例

病理解剖所見

2例の剖検例
肺間質の炎症とび漫性肺胞障害を伴う両側重症出血性ウイルス性肺炎、
両側肺塞栓

1例の剖検例
び漫性肺胞障害、厚いヒアリン膜、
著明な線維芽細胞の増殖、
細菌性肺炎の所見なし



文献)


1) CDC. Oseltamivir-Resistant Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection in Two Immunosuppressed Patients, Seattle, Washington, 2009 MMWR 58(32);893-896

2) 国立感染症研究所感染症情報センター、大阪における新型インフルエンザの臨床像 (第二報)  6月12日

3) Eurosurveillance. Description of the early stage of pandemic (H1N1) 2009 in Germany. Volume 14, Issue 31, 06 August 2009

4)CDC. CDC Recommendations for the Amount of Time Persons with Influenza-Like Illness Should be Away from Others August 5, 2009

5) 国立感染症研究所感染症情報センター、神戸市における新型インフルエンザ臨床像の暫定的なまとめ(第二報) 6月5日l

6) 国立感染症研究所感染症情報センター、福岡市における新型インフルエンザ感染症の集積についての実地疫学調査〜中間報告 7月2日

7) CDC. Hospitalized Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection --- California, April May, 2009 MMWR 58(19);536-541

8) Rogelio PP et al. Pneumonia and Respiratory Failure from Swine-Origin Influenza A (H1N1) in Mexico N Engl J Med 2009;361:7:680-689

9) 厚生労働省 日本におけるインフルエンザ A (H1N1) の新型インフルエンザによる入院患者数の概況 

10) CDC. Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts. May 6, 2009

11) CDC. What to Do If You Get Flu-Like Symptoms August 5, 2009

12) CDC. Intensive-Care Patients With Severe Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection  Michigan, June 2009 MMWR 58(27);749-752







(2009/9/2 IDSC 更新)
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