国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



医療機関における新型インフルエンザ感染対策

          
2009年5月31日

国立感染症研究所感染症情報センター

 
本文書は、2009年5月31日時点で得られている様々な情報をもとに、新型インフルエンザの患者などからの医療関連感染(院内感染)をできるだけ防止するための、現時点で全国すべての地域で適用できる暫定的な手引きである。今後、知見が積み重なるに従って改訂される可能性がある。

推奨する感染対策

  • すべての医療機関において、すべての外来患者を含む来訪者に対する発熱や咳、くしゃみなどのインフルエンザ様症状を指標としたスクリーニングを行う。医療機関の入り口に近いところでその有無をチェックする
  • インフルエンザ様症状を呈している患者と、そうでない患者を別の領域に誘導する
  • これらの業務に従事するスタッフは、常時サージカルマスクを着用していることが望ましい
  • インフルエンザ様症状を呈している患者に対して迅速診断キットやウイルス分離・PCR検査のための検体を採取する場合は、それに加えて眼の防護(ゴーグルまたはフェイスシールド)と手袋を着用する。この手技は、他の患者からなるべく離れた場所で行うようにする
  • インフルエンザ様疾患の患者に対して入院加療が必要な場合、用いる病室は個室が望ましいが、他の患者と十分な距離を置くことのできる状況では、インフルエンザ様疾患の患者を同室に収容することも考慮する
  • インフルエンザ様疾患の患者の部屋に入室するスタッフは、サージカルマスクを着用する。手指衛生の励行に努める
  • インフルエンザ様疾患の患者に対する気管支鏡、気管内挿管などのエアロゾルを産生するリスクのある手技は、個室で行い、スタッフはサージカルマスクに代えてN95マスクまたはそれ以上の性能の呼吸器防護具、眼の防護(ゴーグルまたはフェイスシールド)、手袋を着用することが望ましい
  • 常に、標準予防策や手指衛生も忘れずに行う


 以下、上記の推奨に至った理由につき簡単に説明する。詳細は、2009年5月20日 国立感染症研究所 感染症情報センター 発出の、「医療機関での新型インフルエンザ感染対策:第三段階(まん延期)以降」[1]を参照のこと。


流行状況や感染経路などに関する現状分析

 
世界中で公式報告数だけでも10000人以上、アメリカでは10万人とも言われる患者が発生している状況は、新型インフルエンザA(H1N1)がすでにヒトからヒトへ感染伝播する能力を十分に身につけていると考えるに足る状況である。日本でも5月31日午前9時現在、370余名が確認されており、そのほとんどが国内での感染伝播事例である。日々の確定患者数は減少傾向にあるが、地域によっては市中での伝播が完全に終息はしていないと考えるべき状況である。

 つまり、本疾患は市中感染を主体とする季節性インフルエンザと同様にとらえるべき状況にあり、院内での感染(医療関連感染)をいくら厳格に行っても医療従事者の感染は防ぎきれないことをまず認識すべきである。


本疾患の感染経路

 
本疾患の感染経路が接触・飛沫・空気感染のいずれによるものであるかという点に関する情報はまだ少ない。季節性インフルエンザと同様に飛沫感染が主体であると考えられる。暫定的ではあるが、大阪府の高校における集団発生の疫学調査からは、教室の座席位置の近いものから順々に伝播していったような所見もあり、一気に教室全体に広がる空気感染よりは、近距離の感染伝播様式である飛沫感染を示唆する所見である。

 また、メキシコの村における集団発生事例で結膜炎が9.0%に認められたとする一方、アメリカの642例の報告では結膜炎に関する記載はない。日本の症例でも眼の症状を呈している患者はほとんどいない。従って、眼を感染経路と考える必要はあまりないものと考えられる。同様に、下痢や嘔吐を呈する患者の割合についてもアメリカの報告と日本の症例で差があり、また便や嘔吐物などの感染性についても明らかでない。従って、便や嘔吐物については標準予防策を基準とする対応でよいと思われる。

以下、医療施設の場所ごとの感染対策について簡単に述べる。


【A】症例に対して医療従事者が最初に接する場所(外来領域など)での感染対策

 新型インフルエンザに関して想定される主な感染経路である飛沫感染を防ぎ、また医療従事者自身が市中で感染し、発症前日(=感染源となりうるが、無症状)である可能性もふまえ、特に人と人が大勢出会うこの病院区域においてサージカルマスクをスタッフが常時着用することは意味があると考える。季節性インフルエンザの流行シーズンに外来スタッフがサージカルマスクを着用し、手指衛生を頻回に行うのと同様である。

 患者同士の距離を取ることも大切である。屋外に一時的に待合い施設を設けるのも一つの案である。

 鼻腔や咽頭などから検査のための検体を採取する際には、飛沫の飛散のリスクが高まる。眼を感染経路と考える必要はあまりないが、眼の粘膜を守るため、標準予防策としての眼の防護具が必要と考える。


【B】確定患者のケアを行う医療従事者のとるべき経路別予防策

 CDCは患者の部屋に入室する際にN95マスクの着用を勧めている[2]が、WHOはそれを勧めていない。空気感染の明確なエビデンスがないこと、今後N95マスクが不足してくること、市中感染が発生している状況と医療機関において高度な感染対策を行っていることとのバランスの問題、から、通常のケアに従事するスタッフはN95による空気予防策を取る必要はなく、飛沫予防策と手指衛生を標準とすべきである。またこれは、地域の流行状況によって変わるものではなく、今回の新型インフルエンザAH1N1)に対して適用される普遍的な感染対策である。


【C】患者を収容する病室

 少なくとも陰圧室は必要ない。個室が足りなければインフルエンザの患者同士を同室に収容するのが適切である。エアロゾルを産生する気管内挿管などの手技を行う際には、換気のよい部屋で行う。詳細は以前の手引きを参照のこと。


[1] http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/infection_control_2.html

[2]CDC:医療機関におけるブタインフルエンザA(H1N1)感染が確認された患者または疑わしい患者のケアにおける感染制御・暫定的手引き
http://www.cdc.gov/h1n1flu/guidelines_infection_control.htm(英語)
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/CDC_infection_control.html(日本語訳)


[3]WHO:A(H1N1)ブタインフルエンザの確認されたあるいは疑わしい患者のケアを行う医療施設における感染制御と対策・暫定的手引き
http://www.who.int/csr/resources/publications/infection_control/en/index.html(英語)
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009who/09who41.html(日本語訳)



(2009/6/1 IDSC 更新)
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