志賀毒素産生性大腸菌O103:H2による家族内感染−青森県

1997(平成9)年5月、H病院に入院中の保育園児の便から志賀毒素産生性大腸菌(STEC)(腸管出血性大腸菌)が分離された。この分離菌株、培養液、患者便(キャリーブレア輸送培地)についてPCRによる志賀毒素(Stx) 遺伝子(stx)の検出試験、RapiD 2OE(bioMerieux社)による同定、市販血清(デンカ生研)による血清型別、RPLA(デンカ生研)によるStx 検出試験を行った結果、当該菌株はStx1を産生し市販血清に凝集しないSTECと同定された。後日、本菌を国立感染症研究所に送付し血清型別を依頼したところO103:H2であることが判明した。接触者調査として患者の家族3名の便を検査したところ1名の保菌者(M)が見つかった。Mは全く症状を呈していなかった。なおヒトからの本血清型菌はわが国では昨年7月秋田県で分離されている(本月報Vol.18、No.6参照)。

患者は4月下旬に下痢・腹痛が出現し、症状が憎悪したため受診後入院した。その後経過が良く短期間で退院した。病院の検査部門では医師の指示によりSTEC検査を行い、RPLAでStx1を確認していた。関係保健所では各方面に詳細な聞き取り調査を行ったが、患者が通っていた保育園の園児には下痢症状は確認されず感染源および感染ルートは特定できなかった。

接触者便からの菌分離は次のとおり行った。便付着綿棒を1mlの生理的食塩水に溶解して原液とし、その10μlを90μlのTEに接種して遠心洗浄を2回行い(10,000rpm 5分)、5分間煮沸後PCRを行った。さらに、原液を 100μlずつ各々3mlのCA-YE培地およびTSB培地に接種し35℃で11時間振盪培養を行いPCRとRPLAを実施した。その結果、患者とMの便原液ならびに2種類の培養液からstx 1が検出され、2種類の培養液1ml中に患者では 512〜1,024ng、Mでは16〜32ngのStx1が検出された。次にMの便原液をSMAC(Difco社)に塗布し35℃で20時間培養後、94個の赤色集落を200μl のCA-YE培地入りマイクロプレートに接種して35℃で20時間培養し、マイクロトレーを3,000rpmで20分間遠心した上清についてRPLAを実施した。その結果、7集落からStx1が検出され、PCRでstx 1が確認された。

今回は市販血清が無いため保菌者からの菌分離の困難さが考えられたが、便自体のPCR、あるいはマイクロトレーを利用したStx 検査により迅速に菌分離が行われた。今後、検査試薬の開発によりベッドサイドでのStx 検出の増加が予想されるため、O157型以外の菌型にも十分な注意と対策が望まれる。

青森県環境保健センター
大友良光 野呂キョウ 岡 典子 筒井理華

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