SalmonellaEnteritidisによる家庭内食中毒での死者発生事例−山梨県
1997年8月、山梨県ではサルモネラ食中毒による初めての死亡事例を経験した。
1997年8月13日午前9時、甲府市内のC病院より「8月11日に当院に入院した患者が、8月12日午前8時50分にサルモネラ腸炎による腸管出血により死亡した」という旨の電話連絡が患者管轄の石和保健所にあった。8月13日当所で分離菌を同定したところSalmonella Enteritidis(SE)であった。
事件の経過の概略を表に示した。死亡した患者は果樹栽培農家の53歳男性で、8月2日午後10時30分頃下痢、嘔吐および39.3℃の発熱の初発症状があった。
8月3日午前11時30分に近隣のA病院に受診し、入院を勧められたが、果樹栽培農家としては収穫のため最も繁忙期でもあり入院を断念し、抗生剤の投与を受けた。検便も同日、A病院と同系列のC病院で実施された。8月4日午後、A病院の紹介で家の近くのB診療所にて受診、治療を受けた。検便の結果サルモネラが分離されたこと(8月6日)が判明し、A病院経由で患者本人およびB診療所に報告された。8月7日は受診、投薬を受けたが、8月8日〜10日までは果実の出荷作業に追われ、受診していなかった。翌8月11日午前2時患者は自宅でトイレに向かう途中倒れ、救急車にてA病院に運ばれたが、より施設の整備された甲府市内のC病院に転送された。8月12日午前1時、血便、下血がみられ、同日午前8時50分死亡した。
患者が死亡してからの届出、初発から11日も経過していたこと、さらに患者がひとりで食事を摂っていたことなどから原因食品を推定することが困難であった。喫食調査は生前の問診や家族の聞き取り調査からの推定である。
8月2日午前7時すぎ、患者本人ひとりが朝食のため生卵を割り食事をしようとしたが、急用ができたため外出し、午前10時に帰宅後割った卵を納豆にかけて食事を摂った。割卵後3時間、室温に放置されたのか、冷蔵庫に保存されたのかは不明である。患者家族の他の2人は卵を食べていなかった。探知から11日も経過しており、食品等の細菌検査は実施できなかったが、本月報Vol.17、No.11の東京都のSE食中毒事例報告のように割卵した卵の室温での放置の可能性が高いと考えられた。
患者から分離されたSEは、ファージ型4、SM1剤耐性、60kbプラスミド単独保有株であった。
SE食中毒は現在も続いており、原因として多い卵の流通ルートの保管状況、汚染状況調査および消費者への食中毒に対する普及、啓蒙活動が今まで以上に必要で、そのための時間を割くべきである。二度と同様な事例が起きないことを強く望む。
山梨県衛生公害研究所 金子通治 高橋照美
山梨県石和保健所 高橋 要 菊嶋慶彦