腸管出血性大腸菌O26による集団下痢症−横須賀市

腸管出血性大腸菌(EHEC) O157が原因とされる集団発生は国内外を問わず数多く報告されている。昨年、わが国で発生したEHEC O157による大規模な集団発生は記憶に新しい。一方、それ以外のNon-O157 EHECを原因とする集団発生の報告事例は比較的稀である。しかし、最近 EHEC O26など、Non-O157 EHECによる感染事例が国内でも少なからず報告されるようになった。横須賀市では、1997年7月、市内の保育園(園児数94名、職員数17名)において、患者2名(園児)、保菌者25名(園児22名、保母3名)のEHEC O26による集団下痢症が発生した。また、この原因究明調査で、保育園の給食に出された食品(ナムルとスイカ)から患者と同様のEHEC O26を検出したので、その概要を報告する。

検査材料は、1)糞便:園児94件、保母14件、調理従事者3件、家族90件、食品業者5件、の計206件であり、2)食品53件、3)食材70件、4)ふきとり16件であった。そのうち EHEC O26が検出されたのは園児24例(26%)、保母3例(21%)、食品2例(4%)であった。表1にEHECの検出概要および菌学的性状を示した。検出菌の血清型はO26:H11、ベロ毒素型はVT1であった。eaeA遺伝子の保有状況は No.21(4歳男児)1例を除き、すべての検出菌が保有していた。薬剤感受性試験は12の薬剤を用い行ったところ、 No.12(3歳男児)と No.15(1歳女児)の2例を除くすべての検出菌(食品からの検出菌を含む)が同一の多剤耐性パターンであった。

図1はパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)によるDNA解析である。制限酵素(XbaI、SfiI、SpeI)3種類による切断パターンは、患者由来株と食品由来株で完全に一致した。なお、保菌者由来株はXbaIの170kbおよび50kb付近に1バンドの差異が認められたが、全体として、これら由来の異なる菌株は同一の菌と思われた。

患者2名の糞便性状および症状については、初発患者では便性状が粘血便、他は水様便であり、いずれもHUSの併発は無かった。また、保菌者は軽症下痢もしくは症状が無く、医療機関を受診していない状況だった。図2はVTの確認された患者・保菌者の下痢発生日について示した。間隔を置く3つの山から、園内での二次感染の可能性が示唆された。 EHEC O26検出食品と初発患者との関係では、 EHEC O26検出食品が給食に出された日(7月11日)に初発患者の下痢が発生していることから、上記食品からヒトへの感染は考えにくい結果であった。

今回の事例においては、7月9日〜28日の間に保育園で出された給食の食品が検査に供されたものであり、そのナムル(もやし、ほうれん草、ハムのあえ物)とスイカから EHEC O26が検出されているが、それらの食材からは EHEC O26が検出されなかった。したがって、少なくとも保育園内で、何らかの感染があった可能性が示唆されるものの、何時、何処で、どの食材からヒトヘ、また、ヒトから食材へ、あるいはヒトからヒトへどのように伝播したかについては不明であった。今後とも、これら腸管出血性大腸菌感染症については集団、散発例を問わず、その原因食品・食材を明らかにし、感染経路を究明するために検査体制の維持強化を図って行く予定である。なお、PFGEによるDNA解析は神奈川県衛生研究所細菌病理部に依頼した結果であり、ご支援に感謝致します。

横須賀市衛生試験所
蛭田徳昭  山口純子 佐藤嘉雄
日守満里子 増山 亨 三留昭一

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