海外渡航歴のないコレラ発生状況と対応方針

I.公衆衛生審議会伝染病予防部会(平成9年10月7日)の報告
1.海外渡航歴のないコレラ発生についての概要
平成9(1997)年のコレラの発生事例は、10月1日現在で疑似を含め90名である。このうち海外渡航歴のない人のコレラの発生は、34名(神奈川県、愛知県、東京都、静岡県、大阪府、栃木県、兵庫県、新潟県、岐阜県、千葉県、秋田県、福島県、埼玉県、京都府、鹿児島県、大分県)となっている。

2.コレラ発生状況の調査について
(1)コレラの疫学調査について
都道府県担当部局が実施した喫食状況調査、接触者検病検査、収去した食品およびふき取り検査等必要な疫学検査が行われたが、感染源は不明であった。なお、一連の調査において食品等からコレラ菌は検出されなかった。

本年のコレラの発生事例について分析すると、まず、全コレラ発生事例の中で海外渡航歴のない人の発生事例の割合が高いことが挙げられる。さらに海外渡航歴のない人の発生事例については、 (1)半数が60歳以上の高齢者であること、 (2)同一の喫食をしている中で1名のみが発症する、 (3)ほとんどが散発事例であり、海外渡航者との接触もないといった傾向が認められている。

(2)コレラ菌株の解析について
昨年のO157の集団発生において、分離菌株の DNA解析等より疫学的に重要な情報が得られたという事例にならい、コレラの発生事例についても国立感染症研究所において一元的に疫学的解析を実施することとした。そのため、本年の発生事例について各都道府県の衛生主管部を通じて、地方衛生研究所から国立感染症研究所ヘコレラ菌株の提供を依頼し、到着した菌株から順次、ファージ型、薬剤感受性、 DNAパターンによる疫学的解析を開始しているところである。これまでの中間的な結果のまとめでは、海外渡航歴のない人から分離された株の性状は同一パターンであり、過去に分離された参照株a、および本年の海外渡航歴ありの者Aの菌株と酷似していた。

3.予想される原因について
本年、日本の各地において海外渡航歴のない者からコレラ菌が分離された原因として、 (1)輸入食品からの感染、 (2)海外渡航者で把握できていない者からの二次感染、 (3)国内にコレラ菌が存在すると仮定した上で、そのコレラ菌の水または食品を介しての感染、等が可能性として考えられる。今回、国立感染症研究所において実施している菌株の分析によると、海外渡航歴のある患者由来の株は渡航先に依存した性状を示す傾向があるのに反し、海外渡航歴のない者由来の32株中、分析の終わった16株の性状に一定の共通性が認められるが、まだ16株の検査が終了していない状況を考えると、原因を特定することは難しい。

なお、本年に入り渡航歴のない人からのコレラ菌の報告数が増加の傾向を示したのは、昨年のO157の集団発生の影響により軽い下痢でも医療機関へ受診する機会が増えたことが、背景にあるのではないかと思われる。

4.今後の対策方針について
コレラ対策については、本年9月2日、厚生省結核感染症課および食品保健課から各都道府県衛生主管部宛に、コレラ防疫対策の一層の強化をお願いするとともに、本年に発生したコレラの原因究明のため、各地方衛生研究所から国立感染症研究所へ分離されたコレラ菌株の提供をお願いする通知を出したところである。また、本年9月30日、厚生省結核感染症課および食品保健課から各検疫所宛に、コレラ汚染地域を国内にもつ国から輸入される生鮮魚介類について、検疫の強化を行うよう通知を出したところである。

コレラ菌株の解析等の結果については、今後も必要に応じて公衆衛生審議会伝染病予防部会での審議を踏まえて、厚生省内関係各課と連携をとった対策を講じていく必要がある。

また、コレラの発生は9月に入り減少しているものの、食中毒の経口感染症が本年も多発していることより、食品や日常生活の衛生についてさらに周知していく必要がある。

なお、本年度からスタートした、新興・再興感染症研究事業において、食中毒菌の検出方法、食品汚染の実態とその制御に関する研究、食品製造業等における衛生管理に関する研究、疫学的指標としてのDNA型別等に関する研究等、食品由来感染症について総合的な研究が実施されている。これらの研究については、コレラの発生事例についても視野に入れた研究となるように、各研究班の主任研究者と研究の内容について協議していく必要がある。

II.国立感染症研究所からのお願い

厚生省の依頼により、各地方衛生研究所から国立感染症研究所に送付されました本年度発生のコレラ菌株の性状解析等の中間報告が、平成9年10月7日の公衆衛生審議会伝染病予防部会で報告されました(上記資料参照)。菌株送付に関しましてはご協力いただきありがとうございました。今後も調査を継続することとなっておりますので、菌株の送付等につきましてさらなるご協力をお願いいたします。

なお、これらの内容の詳細および先日(9月17日)行われました食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会において発表されました腸管出血性大腸菌O157等のDNAパターン分析結果は、大月地方衛生研究所全国協議会会長よりご指示をいただきました地方衛生研究所協議会の各ブロックの代表者(北海道等地区:秋田県衛生科学研究所所長、関東等地区:東京都立衛生研究所所長、東海等地区:石川県保健環境センター所長、近畿地区:大阪府立公衆衛生研究所所長、中国・四国地区:愛媛県立衛生研究所所長、九州地区:大分県衛生環境研究センター所長)宛にお送りいたしてあります。

国立感染症研究所細菌部長 渡辺治雄

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