世界のマラリアの現況−1994年
マラリアの危険にさらされている人口:1994年の時点で 100の国と地域がマラリアの危険にさらされている。このうち92カ国/地域では熱帯熱マラリアを含めたマラリアの流行がみられ、8カ国/地域では三日熱マラリアのみの流行がみられている(地図1)。1994年の時点では23億人がマラリアの危険地域に居住しているものと推定されており、これは世界人口の41%に相当する。
全世界の感染者数および死者数:世界で年間3〜5億人がマラリアに罹患し、150〜270万人が死亡していると見積もられている。マラリア単独か他疾患とマラリアとの合併によって、5歳以下の子供が約100万人死亡していると考えられる。世界のマラリア感染者数の90%以上、死亡例の大部分は熱帯アフリカの国々でおこっていると推定される。
マラリアによって死亡しているのはどのような人達か:熱帯熱マラリア原虫が重症マラリアやマラリアによる死亡の主たる原因微生物であり、幼い子供、免疫のない成人および妊娠初期の女性が犠牲となっている。熱帯熱マラリア原虫は熱帯アフリカ、東アジア、オセアニアおよびアマゾン地方でみられる主たるマラリア原虫である。これ以外の地域ではあまりみられない。早期診断と迅速かつ十分な治療とが死亡者数を減らすための最もよい方法である。
WHOに報告されるマラリア情報:ここに示す報告はマラリア症例の一部のみだけが報告されているにすぎない。不十分かつ不定期な報告のため多くの地域における年間発生率についての正確な情報を得ることは困難となっている。1962年からの年間報告されるマラリア患者数をみると1962年の330万人〜1989年の3,510万人、平均1,350万人である。表1はここ10年間に地区のWHOから報告がなされたマラリア患者数を示している。1994年の 3,480万人の患者のうち 2,760万人がWHOアフリカ地区から報告されたものであり、全報告症例数の79%を占めている。これらの国のなかでもマラリアはある特定の地域に集中してみられた。
マラリアの薬剤耐性:マラリアの薬剤抵抗の問題は1994年にいたって状況がますます悪化している。熱帯熱マラリアが流行している国々の中で、クロロキン耐性熱帯熱マラリア原虫が報告されていないのは中米とエジプトのみである。アフリカではクロロキン耐性マラリアは流行がみられるすべての国々、ことに東アフリカにおいては今では普通にみられるのにもかかわらず、これらの国ではいまだにクロロキンが第一選択薬として用いられているのが現状である。様々なレベルのクロロキン耐性が中近東、インドネシア、マレーシア、フィリピン、およびオセアニアでみられる。ファンシダール耐性マラリアは東南アジアと南米では広まっているが、それ以外では限 局した地域にみられる。タイにおいてはカンボジアとミャンマーの国境ぞいのある地域の熱帯熱マラリア患者の半数以上はもはやメフロキンによる治療が無効となっている。アフリカにおいてはメフロキンに対する熱帯熱マラリアの感受性がin vitro検査では確認されているが患者における調査はほとんどなされていない。多剤耐性が報告されている東南アジアの多くの国々とブラジルにおいては、キニーネとテトラサイクリンの併用がマラリアの標準治療薬となっている。しかしながらキニーネの効力は次第に低下しつつあり、artemisininやその誘導体が第一線で使用されている地域もあり、これにメフロキンの併用が行われることもある。アフリカではキニーネが重症マラリアや合併症を伴ったマラリアの治療薬として今でもきわめて有効である。クロロキン耐性三日熱マラリア原虫はパプアニューギニアにおいて1989年に第1例が記録されている。インドネシア、ミャンマー、バヌアツでも同様の耐性株が確認されている。インドネシアとパプアニューギニアのある特定の地域では通常のクロロキン治療では1〜3週間後には三日熱患者の20〜30%で再燃がみられる。薬剤耐性の状況は悪化しており、どの抗マラリア剤を使用するか決めることはますます困難となってきている。抗マラリア剤に関する指針を発展させることとデータを収集することを目的としてWHOは非公式な会合を1994年に開き、合併症のないマラリアに使用する薬剤の治療効果を監視する方針が打ち出された。
(WHO 、WER、72、No.36、269、1997)