The Topic of This Month Vol.19 No.3(No.217)
感染症サーベイランス事業では1981年7月より定点医療機関からのEIの報告を集計している。それ以前は約10年の周期で春〜初夏にかけての小流行があり、1980年には全国的な規模での流行が確認されている。最近の流行周期は図1のようにほぼ5年ごととなり、季節性も少なくなってきた。感染症サーベイランスの中で得られた患者の年齢分布をみると5〜9歳での発生がもっとも多く、ついで1〜4歳が多い(図2)。本サーベイランスでは小児科定点からの報告が中心であるため成人における発生状況は不明であるが、IASRには、看護学校学生・看護婦などの病院内感染による成人集団発生事例が報告されている(本月報Vol.12、No.7、1991、Vol.18、No.12、1997参照)。
B19ウイルスの分離培養は困難であり、診断用検査薬の開発が遅れていたが、最近遺伝子組換えにより発現させたB19粒子抗原を利用した抗体測定試薬がわが国でも開発された。同測定試薬を利用して調査された1993年の健常人の年齢群別IgG抗体保有状況は、図3のように、0〜4歳は10%程度で低いが、5〜14歳では約60%、15〜29歳ではそれより低く、30歳以降再び上昇、年齢が高いほど抗体保有率は高くなっている。男女間に有意差はなかった(松永ら、感染症学雑誌、Vol.69:1371、1995)。
EIは当初異型の風疹として発表され(1889年)、その後独立疾患であることが確立された。これまでEIと風疹の流行時期は重なることが多く、図4は、感染症サーベイランス事業による風疹報告数の推移をEI(図1)と比較したものであるが、両者とも1987、1992年にピークがみられ、発生パターンが近似している。典型的なEIで臨床診断を誤ることはないが、非典型例は風疹様発疹との鑑別が困難である。英国において行われた血清調査では、風疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べられている(CDSC、CDR、Vol.3、No.28;本月報Vol.14、No.10、1993参照)。近年、B19抗体測定試薬がキット化され、抗体検査が簡便になったので、両者の鑑別がより実験室診断に基づいて行われるようになることが期待される。
EIは典型的なB19感染症で予後良好な疾患であるが、B19感染症は単にEIにとどまらない。溶血性貧血患者がB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)が生ずるが、その他にも急性関節炎、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群(VAHS/HPS)、免疫異常者における持続感染などの存在も知られるようになってきた。
B19感染症で注意すべきものの一つとして、妊婦感染による胎児水腫などの胎児の異常がある。英国では妊婦のB19感染の頻度はおよそ1/400で、このうち約9%に胎児死亡が生じるという報告がある(CDSC、CDR、Vol.4、Review No.9;本月報Vol.15、No.9、1994参照)。死産児での奇形の報告はあるが、生存児での先天奇形は知られていない。福岡市のEI流行年における胎児水腫の発生頻度は出生1,000対2前後であり、その多くは死亡している(本号3ページ参照)。したがって妊婦の風疹感染と異なり奇形児出産の恐れは少ないが、超音波断層検査等で胎児の状態をよく把握すること、ウイルス学的診断を確実に行うことなどが必要である。
B19は、ウイルス粒子が18〜26nmと小さくフィルターによる除去が難しく、エンベロープ(脂質膜)が無いため有機溶媒や界面活性剤などでの不活化が困難で、耐熱性も強い。血漿分画製剤中にB19 DNAが検出される場合があり、本剤の投与によりB19に感染する危険性を否定できないため、「投与後の経過を十分に観察すること」、「溶血性・失血性貧血の患者、免疫不全・免疫抑制状態の患者では発熱と急激な貧血、持続性の貧血を起こすことがあること」、「妊婦または妊娠の可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること」と添付文書に加えられ、血漿分画製剤の使用にあたっての注意が喚起された(医薬品副作用情報No.141、平成9年1月、本号3ページ参照)。なお免疫グロブリン製剤については、製剤中の抗体によって感染性が失われている可能性があるが、確固たるデータが無いため、他の血漿分画製剤と同様に使用上の注意事項が変更された。