The Topic of This Month Vol.19 No.4(No.218)


日本におけるAIDS/HIVサーベイランス 1985〜1997

わが国におけるエイズ発生動向調査(エイズ・サーベイランス)は1984年から開始された。1989年には「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」が施行され、凝固因子製剤による感染の各症例については別個の研究班「HIV感染者発症予防・治療に関する研究班」で審査・解析されるようになり、上記エイズサーベイランス委員会には凝固因子製剤感染例を除くHIV感染確認者とAIDS患者が報告されている。

HIV感染者(AIDS未発症者)あるいはAIDS患者を診断した医師は、都道府県・政令市に「エイズ病原体感染者報告票」を診断後7日以内に提出することが義務づけられており、その報告票は厚生省保健医療局エイズ疾病対策課に集められる。報告票に医師によって記載される事項は、HIVの実験室診断検査結果(確認検査は必須)、主な症状と病名、性別、年齢、国籍、居住地(都道府県・政令市名)、感染経路、感染場所、診断年月日、報告年月日などである。

さらに初回報告票が既に提出されたHIV感染者あるいはAIDS患者に病状の変化(HIV→AIDSまたはAIDS→死亡)があった場合には、「病変報告票」が同様の流れで集められる。

1997年末に厚生省エイズ動向委員会(旧称エイズサーベイランス委員会、委員長:国立感染研所長・山崎修道)は、新たにAIDS/HIV年報作成作業部会を設け、1985〜1997年末までのすべてのデータ解析を再検討して報告書をとりまとめた。以下1、2にその要約を述べる。

 1. 1997年のAIDS/HIV状況:1997年のHIV感染者(以下HIVと省略)は 397例、AIDS患者(以下AIDSと省略)は 250例が報告され、いずれも前年(それぞれ375例、235例)を上回った。AIDS報告数はサーベイランス開始以来最高の年間報告数を記録した。

 (1)感染経路別では、性的接触による感染(HIV77%、AIDS 64%)、国籍・性別では、日本人の男性(HIV 59%、AIDS 68%)が多数を占め、感染場所別では日本人の大半が国内感染(HIV 75%、AIDS 61%)であった。

 (2)1997年の男女比はHIVで 2.5(283:114)、AIDSで 5.1(209:41)である。

 (3)AIDS/HIVの報告は関東甲信越ブロック、特に東京からの報告が最も多い。1997年の全国からの報告のうち、HIV の76%、AIDSの75%が当ブロックから報告された。同性間性的接触による感染例はとりわけ東京都に集中している。

 (4)日本人のHIV感染者を年齢別にみると、男性異性間性的接触による感染は45〜49歳、男性同性間性的接触による感染は25〜29歳、女性異性間性的接触による感染は20〜24歳がピークとなっている。

 (5)HIV抗体スクリーニング開始(1986年11月)後、わが国では輸血による感染例はなかったが、本年、HIV感染国内献血血液で感染した症例が初めて報告された。これは抗体産生前(ウインドウ・ピリオド中)の感染者血液によるものである。

 2. 1985〜1997年末までのAIDS/HIVの概要:過去13年間の凝固因子製剤感染者を除く累積報告数は、HIV 2,490例(表1)、AIDS 1,056例(死亡 528例)(表2)に達した。(なお、加熱製剤導入前の汚染血液凝固因子製剤によって感染した血友病患者は、HIV 1,495例で、HIV合計の38%である。AIDSは 628例[死亡 485例]で、AIDS合計の37%を占める。)

 (1)感染経路別でみると、HIV(表1)では、異性間性的接触49%、同性間性的接触23%、静注薬物濫用 0.6%、母子感染 0.8%、その他 2.0%、不明25%である。AIDS(表2)においても、感染経路別の比率はHIVにほぼ近い。

 (2)HIV、AIDS報告数の年次推移を図1に示す。わが国では欧米諸国と異なり、依然として感染の拡大傾向が続いている。HIVの国籍別では、日本人男性43%、女性 9.0%、外国人男性14%、女性34%。AIDSでは、それぞれ66%、6.0%、20%、8.0%となっている。国籍・性別の年次推移を図1a(HIV)図1b(AIDS)に示す。1992年のHIVのピークは、外国人女性であり、主として東南アジアからの若い女性によるものである。

 (3)日本人は異性間・同性間性的接触ともに1991年以降増加を続けている。感染場所別では1992年以降、日本人男性の国内における感染が増加し続けていることが注目される(図2)。

 (4)献血血液のスクリーニングはすべて日本赤十字血液センターで行われているが、確認検査で陽性であった献血者の数は1990年以来わずかながら毎年増加し続けている。1997年は約 600万の献血件数のうち、54件(うち女性5件)がHIV陽性と判定され、献血10万件当たり 0.9件に達した(図3)。

 3. 日本で流行するHIV-1 サブタイプ:血液製剤による感染者と1993年以前の異性間性的接触による日本人男性からはサブタイプBが検出されたが、1994年以降はほとんどサブタイプE(タイA亜型)のみが検出され、最近の日本における異性間性的接触によるHIV感染は主としてサブタイプEによるものであることが示唆されている(本号3ページ参照)。

 まとめ:HIV感染がほぼピークに達した欧米諸国と異なり、日本ではHIV感染者が現在増加しつつある。特に日本人男性の性的接触による国内での感染が増えていること、および献血者のHIV抗体陽性率が上昇傾向にあることに十分注意して、有効な予防手段を講ずることが現在の緊急課題である。

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