アデノウイルス7型肺炎の全国調査結果

本月報Vol.17、No.5において「アデノウイルス7型の出現、1995」という特集が組まれてから2年が過ぎた。この間各地から、アデノウイルス7型(Ad7)による重症肺炎の報告が続いた。Ad7感染症は、わが国では稀なため、全体的な臨床像は十分解明されていないのが現状と思われる。そこで、全国調査を実施し、Ad7肺炎の臨床像の把握に努め、予後危険因子を検討したので報告する。

方法:小児科関係学会抄録や地方衛生研究所の感染症情報を基に、Ad7肺炎報告施設(平成9年12月末までに計23施設)にアンケート調査を行い、20施設81例のAd7肺炎のデータを得た。これに当科で経験した8例を加えた21施設89例のAd7肺炎を対象とした(表1に施設名、例数を示す)。予後危険因子は、多重ロジスティック回帰分析を用いて解析した。

結果:89例(男児57例、女児32例)の発症年齢は、2.1±2.2歳(以下平均±標準偏差)で、生後12カ月未満が29例(33%)であった。後遺症なく回復した(後遺症(−)群)のは、54例(61%)で、11例(12%)が死亡し(死亡群)、24例(27%)に後遺症を認めた(後遺症群)。年齢と予後を図1に示す。死因は呼吸不全が9例、多臓器不全が1例、未記載1例であった。後遺症は、肺機能の異常14例、長期喘鳴11例など呼吸器系の後遺症が目立った。基礎疾患の存在は、21例(24%)に認め、気管支喘息7例、先天性心疾患3例、外科手術後3例、脳性麻痺2例の順であった。院内感染の疑いは32例(36%)、家族内感染は20例(22%)に認めた。

臨床症状は、発熱と咳漱を全例に認めた。38℃以上の有熱期間は、9.6± 4.4日であった。有熱期間は、死亡群と後遺症群は、後遺症(−)群に比べて有意(P<0.05)に長かった。58例(65%)に酸素投与、19例(21%)に人工換気を要する呼吸障害を認めた。その他、意識障害35例(39%)、けいれん19例(21%)、浮腫14例(16%)、嘔吐・下痢13例(15%)を認めた。

臨床検査は、白血球減少4499.5±2755.3/μl、赤血球減少384.7±63.5万/μl、血小板減少15.1±9.3万/μl、GOT上昇 202.6±275.3IU/l、GPT上昇75.2±84.8IU/l、LDH上昇2709.8±1773.5IU/l、CPK上昇692.0±1401.8IU/l、低蛋白血症5.4±0.8g/dl、フェリチン上昇3184.3±4190.1ng/mlが特徴的であった。サイトカイン(sIL-2R、IL-6、IFN-γ)が測定されていた3例はすべて高値であった。死亡群は後遺症(−)群に比べて、赤血球減少、GOT 、GPT、LDH およびフェリチンの上昇、低蛋白血症、低アルブミン血症が著明であり、有意差(P<0.05)を認めた。後遺症(+)群は後遺症(−)群に比べて、赤血球減少、LDH の上昇、低蛋白血症、低アルブミン血症が著明であり、有意差(P<0.05)を認めた。他方、CRPや赤沈は3群間で有意差を認めなかった。

診断は、ウイルス分離が84例(94%)、抗体診断が42例(47%)でなされていた。EIA法(アデノクロンR)による迅速抗原診断は、13例(15%)で併用されていた。

治療は、全例に抗生剤投与がなされ、ガンマグロブリンが44例(49%)、パルス療法を含むステロイド投与は41例(46%)、サーファクタント投与は8例(9%)で実施されていた。

肺合併症は、胸水25例(28%)、ARDS15例(17%)であった。肺外合併症は63例(71%)にみられ、肝障害28例(31%)、脳炎23例(26%)、 VAHS19例(21%)、胃腸炎13例(15%)、DIC6例(7%)、心不全5例(6%)、腹水4例(4%)等を認めた。

予後危険因子:多重ロジスティック回帰分析による死亡危険因子は、基礎疾患の存在と経過中のLDH最高値が有意(P=0.0123、0.0105)であり、後遺症危険因子は基礎疾患の存在が有意(P=0.0357)であった。

考察:Ad7肺炎は重症例が多く、全体の約40%が死亡または後遺症を残す点で重大である。また、伝染力が強く、新たな院内感染の原因ともなり得るので、迅速抗原検査を活用して、早期に診断し、個室管理や医療従事者の徹底した手洗い等の対応が必要である。多彩な症状や検査所見は、重症Ad7肺炎におけるサイトカインの異常を強く推測させる。また、死亡危険因子として、基礎疾患の存在と経過中のLDHの高値が、後遺症危険因子として、基礎疾患の存在が統計学的にも裏付けられた。従って、心疾患、呼吸器疾患を有する児や心身障害児の収容施設においては、Ad7感染に特に留意する必要がある。また、Ad7感染症の治療にあたってはLDH値を目安に、重症化に注意すべきと考える。

謝辞:多忙な中、アンケート調査に御協力いただいた前記20施設の小児科先生方に深謝致します。また、多変量解析を初め、統計学的解析を御指導下さった三和化学臨床開発部・杉本典夫先生に深謝致します。

PL病院小児科 西村 章

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