イクラを原因とした腸管出血性大腸菌O157:H7感染症の多発

富山県における1998年の腸管出血性大腸菌O157感染症発生は1〜4月は1名と少なかったが、5〜6月は21名と多発した。当初、散発例の増加と思われた多発はその後、イクラが原因のdiffuse outbreakであることがわかった。発生状況と原因究明の概要は次のようであった。

患者発生状況:5〜6月に医療機関から届け出のあった患者の診定日と人数は順に、5月27日1名(富山市)、6月3〜4日2名(入善町、富山市)、6月11〜12日3名(黒部市、入善町)、6月14〜22日5名(黒部市他)、計11名であった。最終的に保菌者を含めた感染者総数は21名で、その地区別分布は県東部の黒部市12、黒部市隣接市町6、富山市3名で、年齢別分布は、1〜4歳6、6〜10歳7、25歳以上8名であった。分離菌はいずれもO157:H7で、VT1、VT2遺伝子陽性であった。

疫学調査:保健所が6月11日診定の患者2名の行動を調査したところ、両者は黒部市内のA寿司店で喫食していた。このため、同店は12〜13日まで営業を自粛し、保健所は同店の食材、ふきとり等81件と従業員19名の便の採取を行った。検査したが、すべてO157陰性であった。6月14日、衛研は6月12日までに6家族9名から分離された9菌株のパルスフィールド電気泳動(PFGE)パターンは確定ではないが、ほぼ同じという成績を得た。これを受けて、5月からの患者すべてについて寿司との関係が再調査された。その結果、5月27日診定の患者はB寿司店(富山市、Aの系列店)、6月3日診定の患者1名はC寿司販売店(黒部市)、6月12〜13日診定の患者3名はA寿司店を利用し、いずれもイクラ寿司を喫食していること、3店で使用されたイクラは北海道N物産製造で共通していることが明らかとなった。

6月17日午前までに、代表的な患者由来7株のプラスミドプロファイル、薬剤感受性、RAPD PCRおよび4種の制限酵素(XbaI、NotI、SpeI、SfiI)を用いたPFGEパターンは同じであることが確認された。

これらの結果等から、同日午後、県は一連のO157感染症の発生原因としてイクラが疑われると発表した。同時に感染の不安のある者に対する無料検便を開始し、保菌者等の発見に努めた。同日、東京都でも届け出のあったO157感染者6例のうち5例はイクラ寿司を喫食していたと発表した。神奈川県、千葉県でも同様の患者が認められた。菌株は感染研へ送付され、また富山県、東京都、千葉県の各衛研で菌株交換が行われた。後日、これら4研究所で、各地で分離されたイクラ関連株はPFGEで一部にパターンのvariationを認めるが、すべて同じと結論された。後述するイクラ分離株のXbaI処理後のPFGEパターンはvariationを含め、患者分離株のそれと同じであった(図1)。最終的に県内の感染者21名のうち、19名は当該イクラの喫食者またはその家族であることが確認された。

イクラからの菌検出:収去されたN物産製造のイクラ醤油漬19検体(1997年9月15日製造7、10月1〜3日製造12)を調べた。初回は検体約15〜25gを数種の培地で培養し、PCR 法、ビーズ法等で菌証明を試みたが、すべて陰性であった。2回目は9月15日製造の3検体に限定し、1検体(1kg包装)を150〜200gずつ3〜5個に分け、約3倍量のTSBで37℃6時間培養後、NBmEC →CT加NBmEC と植え継ぎ、菌分離を試みた。A店で収去された1検体からO157が検出された。陽性1検体は5個のフラスコで培養されていたが、O157はうち3個でのみ認められ、平板上でのコロニーの割合は40〜90%であった。神奈川県、東京都、北海道でも同じ製造日のイクラ醤油漬から該菌が検出された。なお、調べたイクラ6検体(9月15日、10月1日、各3)の一般細菌数は3.5〜 6.4×108/gで、大腸菌群は全例陽性であった。

接触者の検便:患者の家族と患者が通学する学校、保育園において接触者の検便をCT-SMAC 培地を用いて行った。菌検出率は家族で6/47(13%)、その他で2/890(0.2%)であった。

原因究明は県庁担当課を中心とし、保健所、衛生研究所、三者の密接な連携によりなされた。イクラのO157汚染菌量が少なかったこと、汚染に片寄りがあったことがさらに大きな集団発生に結び付かなかったものと思われる。7月に入って新たな患者発生はない。

富山県衛生研究所
刑部陽宅 磯部順子 平田清久 田中大祐
細呂木志保 北村 敬
富山県新川保健所
南 幹雄 川原たま子 尾崎博子 田中桂子

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