CaCo-2細胞を用いたインフルエンザウイルスの分離
CaCo-2細胞はヒト結腸腺癌由来細胞で、エンテロウイルス等のウイルスに対し感受性が良いことが知られているが、インフルエンザウイルスA型、B型に対してもMDCK細胞と同等かそれ以上の感受性を示し、さらに、トリプシンを添加しない通常の維持培地を用いても力価の高いウイルスが得られることを確認したので報告する。
材料は1996(平成8)年度、1997(平成9)年度にインフルエンザ様疾患の患者から集められた咽頭うがい液と咽頭ぬぐい液158件、1991(平成3)年度〜1996(平成8)年度までの間にMDCK細胞でインフルエンザウイルスA(H1)型が分離された6件、A(H3)型が分離された22件、B型が分離された2件の咽頭うがい液および咽頭ぬぐい液を用いた。
細胞はMDCK細胞とCaCo-2細胞を用い、分離は96穴マイクロプレート法で3代まで継代した。なお、分離用培地としてMDCK細胞ではトリプシンを含む10%ウシアルブミン加Eagle's MEMを用いたが、CaCo-2細胞ではトリプシンを含まない1%FBS加Eagle's MEMを用いた。分離したウイルスは0.5%ヒトO型赤血球で赤血球凝集能を確認した後、HA価を測定し、日本インフルエンザセンターより分与されたフェレット抗血清を用いたHI試験によりインフルエンザウイルスと確認した。
1996年度、1997年度に集められた検体158件のうちMDCK細胞で88株(56%)、CaCo-2細胞で96株(61%)のインフルエンザウイルスA(H3)およびB型が分離され、MDCK細胞で分離されたウイルスはすべてCaCo-2細胞でも分離され、8株はCaCo-2細胞のみで分離された。
1991年度〜1996年度までの間にMDCK細胞で分離されたインフルエンザウイルスA(H1)型6株、A(H3)型22株、B型2株のすべてがCaCo-2細胞でも分離できた。また、CaCo-2細胞を用いて初代で分離できたインフルエンザウイルスのHA価の平均は26.3 〜27.2であり、MDCK細胞とCaCo-2細胞で分離したインフルエンザウイルスは同様のHI価を示した。
なお、1997年度の宮崎県の感染症発生動向調査事業において分離検出されたウイルスは合計268株であるが、このうち24種類、250株(93%)のウイルスがCaCo-2細胞で分離同定されている(表)。また、分離されたウイルスのうち、冬期にインフルエンザ様疾患の患者からエコーウイルス30型が、麻疹ワクチン接種後肺炎とされた患者からインフルエンザA(H3)型がそれぞれCaCo-2細胞で分離されており、いずれも患者情報からMDCK細胞、B95a細胞だけを用いた場合は分離できなかったと思われる事例である。
感染症発生動向調査事業では特定のウイルスの検出を目的としないため、感受性の広い細胞の使用が望まれる。この点、CaCo-2細胞は特別な分離用培地を用いることなくインフルエンザウイルスを他のウイルスと同様に分離できるため、ウイルス感染症全般の流行状況を把握するのに有用な細胞であると思われる。
宮崎県衛生環境研究所
吉野修司 山本正悟 木添和博
八木利喬 川畑紀彦