The Topic of This Month Vol.19 No.8(No.222)
1997年の無菌性髄膜炎患者発生報告は6月から増加し始め8〜9月が最も多かった。流行状況は前回流行同様、通常とは異なり10〜12月にもかなりの患者発生が報告された(図1)。1997年の年間患者報告数は3,328人(一定点当たり6.46人)で、1991年の7,672人(同14.05人)、1989年の4,753人(同9.25人)、1990年の3,485人(同6.66人)に次いで過去4番目に多かった。1997年の患者の年齢は0〜4歳42%、5〜9歳39%、10〜14歳9.8%、15歳以上8.4%であった。
1998年の無菌性髄膜炎患者発生報告は5月に急増(一定点当たり 1.00人)、さらに6月(同1.88人)にも大きく増加しており、それぞれ1989年5月(同0.73人)、1991年6月(同1.50人)を上回って、これらの月の報告数としては1987年以降最高である(図1)。
髄膜炎患者から分離されたウイルス報告数の推移を図2に示す。髄膜炎の起因ウイルスはエコーウイルス、コクサッキーB群ウイルスなどが主であるが、特に大きな髄膜炎の流行となった1991年はE30が主因であった。E30は1989〜1991年の流行では6月から分離報告が増加し、7〜8月がピークであったが、1997年は7月以降増加して10月が最も多かった。その後もE30の分離は続いていたが、1998年5月から再び急増している。
今回の流行の地域性をみるため、都道府県別の無菌性髄膜炎患者発生状況およびE30分離状況を図3と図4に示した。E30は1997年6月に福島(本月報Vol.18、No.9参照)、大阪府、奈良県、広島県で分離された。7月以降、奈良県、岡山県、鳥取県、島根県などで患者報告が増加するとともに各地で分離が相次ぎ、12月までに29都府県(34機関)から分離が報告された(本月報Vol.18、No.11&12、Vol.19、No.1& 2参照)。E30は1998年1月以降も、中国・四国・九州を中心に各地で分離が続き、4月以降患者報告が増加している熊本県、香川県、佐賀県、高知県など20都県(22機関)から分離が報告されている(本月報Vol.19、No.5&本号4〜5ペーシ参照)。1998年のウイルス分離報告は速報であり、今後の追加が見込まれる。一方、1997年6月に岩手県で患者報告が増加したが、患者から分離されたウイルスはE9であった(本月報Vol.18、No.8参照)。E9は1997年に3年ぶりに増加し、7月がピークであった(図2)。1998年に入ってのE9分離報告は現在のところまだ少ない。患者発生とウイルス分離の最新動向は、感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/kanja/index-j.html)に掲載されている。
1997年1〜12月にE30は1,335例から分離された。臨床診断名は髄膜炎が1,128例(84%)でこれまでの流行と同様に高い割合を占めた(表1)(本月報Vol.13、No.8参照)。この他6例(2、4、7、7、12、13歳)に脳炎/脳・脊髄炎、1例(3歳)に脳症が報告された(過去の報告をみると、1982〜1996年にE30が分離された7,675例中37例に脳炎/脳・脊髄炎が報告されている)。年齢分布は前回の流行(1989〜1991年)とほぼ同様で(本月報Vol.13、No.8参照)、5歳をピークに3〜7歳が62%を占めている(図5)。前回の流行後に生まれた幼児を中心にE30感染が起こっていると考えられるが、15歳以上も 3.9%報告され、1997年に成人(20〜50歳代)の髄膜炎患者(37例)から分離されたウイルスはすべてE30であった。また、E30分離例44例は家族内発生、52例は集団発生と報告されている(本月報Vol.18、No.9、Vol.19、No.1、3&5および本号4ページ参照)。
E30は髄液からの分離が多いのがこれまでの特徴で、今回も925例(69%)は髄液からの分離で、鼻咽喉材料は544例(41%)、便は282例(21%)であった(同一人の異なる材料からの分離を含む)。
E30はこれまでRD-18S細胞を用いて分離されることが多く、次いでFL細胞やHEp-2細胞などが用いられていたが、最近CaCo-2細胞も感受性が良いために使用されている(本月報Vol.19、No.1&本号4&6ページ参照)。E30分離株はエコーウイルスプール血清「EP95」(本月報Vol.18、No.3参照)などで血清型別されているが、市販の抗血清では同定不能であったという報告が一部みられる(本月報Vol.18、No.9、Vol.19、No.5参照)。現在の流行株の遺伝子塩基配列および中和抗原性についての解析が地研および感染研で進行中である。