志賀毒素産生性大腸菌O121と大腸菌O114群免疫血清の反応の解析−秋田県

秋田県では1997(平成9)年7月に2事例、1998(平成10)年8月に1事例の志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O121:H19感染事例が発生し、その分離・同定の過程で我々はSTEC O121:H19が市販血清によりO114群に群別されることを経験した。このことは、市販血清キットを使用した検査によりSTEC O121:H19がO114:H19と型別されている可能性を示すものと考えられる。実際、病原微生物検出情報にはSTEC O114:H19の分離報告がある。これらのことから、我々はEscherichia coli O114とO121 Standard O Group Strainを入手すると共に、入手したO121 Standard O Group Strainを使用して免疫血清を調製し、O114群とO121群のO抗原関係について検討したので、その成績について報告する。

E.coli Standard O Group Strain O121 W39 とO114 W26はStatens Serum Institut (WHO)、Copenhagenから購入し、E.coli O121 W39に対する免疫血清は、Edwards and Ewing's Identification of Enterobacteriaceae 4'th ed.の記述に従い調製した。市販O114群免疫血清、および自家調製したO121群免疫血清に対するE.coli O114 W26、E.coli O121 W39、および秋田県で分離されたSTEC O121:H19 EC-707、EC-1603の凝集価を試験管内定量凝集法により検討した成績を表1に示した。市販O114群血清にE.coli O114 W26は512倍の凝集価を示したのに対し、E.coli O121 W39は16倍、EC-707とEC-1603はいずれも8倍の凝集価を示した。以上の結果から、市販O114群血清を希釈せずに使用するスライド凝集法では、E.coli O114とO121のいずれもが凝集を示すことが裏付けられた。一方、自家調製したO121群血清に対してE.coli O114 W26は1,280倍の凝集価を示したのに対して、E.coli O121 W39、EC-707、およびEC-1603はいずれも10,240倍の凝集価を示した。試験管内定量凝集法においては被検株とStandard O Group Strainの凝集価の差が1管以内であった場合、被検株のO抗原をそのStandard O Group StrainのO抗原と同一とみなし得るとされている。従って、以上の結果から、EC-707とEC-1603のO抗原がO121群であることが確認された。

分離されたSTECが市販血清によりO114群に群別された場合、レファレンスセンターに血清型の決定を依頼する必要があると思われる。試験管内定量凝集法によれば当該株のO抗原がO121群であるかどうかを決定することは可能であるが、あらかじめStandard O Group Strainを入手しておかなければならないことが難点である。本月報Vol.19、No.1Oで報告したように、STEC O121:H19に感染した患者は比較的重篤な症状を呈する場合がある。今後、O121群の群別用血清の市販が望まれる。

==追記==
本原稿送付後、デンカ生研株式会社生産本部においても、STEC O121と大腸菌O114群免疫血清の交差凝集が確認され、今後、交差凝集素の吸収を実施するとのことであった(平成10年12月7日付けデンカ生研株式会社生産本部からの情報)。

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊藤志保子 安部真理子
佐藤宏康 宮島嘉道

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