The Topic of This Month Vol.20 No.3(No.229)


細菌性赤痢 1996〜1998

わが国における細菌性赤痢の発生は (1)伝染病予防法に基づく患者・保菌者の届け出(伝染病統計)、 (2)地研・保健所での赤痢菌検出報告(病原微生物検出情報)、 (3)都市立伝染病院に入院した赤痢患者についての個票報告(感染性腸炎研究会)によりそれぞれ独立に集計されている。本特集はこれらの資料をもとに最近3年間の細菌性赤痢について述べる。

伝染病統計によると、細菌性赤痢患者(疑似患者、保菌者を含む)は、1996年1,063人、1997年1,112人、1998年1,597人で、1998年に大きく増加した(赤痢として報告される疾患は、細菌性赤痢とアメーバ性赤痢であるが、1996年〜1998年のアメーバ性赤痢患者数はそれぞれ155人、189人、172人であった)。感染地別にみると(図1)、1996年および1997年の細菌性赤痢は、ほとんどが国外感染例(輸入例)であり、そのうちアジア(インド、インドネシア、タイ等)で感染したと考えられる患者が56%および63%と過半数を占めており、国内感染例(国内例)はそれぞれ27%、15%と少なかった。ところが、1998年はその傾向が逆転し、国内例が61%と過半数を占めている。国内例は、1996年282人、1997年171人であったが、1998年は971人と顕著に増加していた。

病原微生物検出情報によると、地研・保健所で検出された赤痢菌の報告総数は1996年は408株(輸入例72%)、1997年は326株(同75%)、1998年は589株(同19%)で、当データも1998年の国内例増加を裏付けている。また、分離された菌種はShigella sonneiが最も多く、1996〜1998年にそれぞれ76%、75%、71%と2/3以上を占め、続いてS.flexneriがそれぞれ20%、19%、28%を占めている。その他はS.dysenteriaeS.boydiiであるがそれらのほとんどは輸入例である。

月別検出状況(図2)では、1996年は4月に、1998年は5月と9〜11月にピークがみられるが、それらは次ページ表1の集団発生の時期と一致している。

1998年に国内例が増加した原因として、国内集団発生事例の増加が挙げられる(表1)。1996年に報告された集団発生は2件で患者総数116人、菌陽性者総数111人、1997年は1件で患者総数3人、菌陽性者総数3人であったが、1998年は集団発生6件で、患者総数974人以上(2件については正確な患者数不明)、菌陽性者総数290人と明らかな増加を示した。1996年〜1998年の集団事例の原因菌はS.sonneiが多く、9事例中8例を占めているのが特徴である(表1)。ちなみに、1991〜1995年の5年間に24件の細菌性赤痢集団事例が報告されているが、そのうち18事例がS.sonneiによるものであった(本月報Vol.15、No.1&>Vol.17、No.6参照)。1997年に広島で発生した事例は、エジプトへの旅行者3人が帰国後細菌性赤痢と判明した事例で、海外における集団感染が疑われたものであるが、残りの事例すべては患者に海外渡航歴がなく、国内で感染したとみなされたものである。そのうち長崎の事例は、患者から分離された菌と血清型および遺伝子型が同一の菌が、学校の井戸水から分離され、集団発生の原因として水系汚染が推定されたが、なぜ水系が汚染されたかは解明されるに至っていない(>本号3ページ参照)。残りの事例は保育園、旅館、福祉・養護施設等で発生しているが、汚染原因が解明されなかった事例ばかりで、原因追究の難しさが推し計られる。

都市立伝染病院集計によれば、細菌性赤痢患者の年齢は(図3)、20歳代が最も多く、その約90%が輸入例である。海外渡航者の年齢との関連性が推定される。一方、国内例は、1996〜1997年には0〜9歳が多い傾向がみられたが、1998年は低年齢層および50歳代と60歳代に顕著な増加傾向がみられた。この50〜60歳代の増加は大阪市で発生した原因不明の集団事例(表1)と関係していた。細菌性赤痢患者の主な臨床症状をみると、1996、1997年はいずれも水様便の割合が高く、血便および膿粘液便を呈する割合が低かった。両年ともに、原因菌として一般的に症状が軽いと言われるS.sonneiによる例が多かったためと考えられた。ところが1998年は、国内例において便の性状として血液、粘液を含む例が、輸入例に比べ、明らかに多く認められた。これは、上記の大阪市で発生したS.flexneri 2aによる集団発生例を反映するものであった。

1998年に都市立伝染病院で分離された赤痢菌の薬剤感受性試験成績(表2)によると、国内例、輸入例とも69%以上がST合剤およびテトラサイクリン(TC)に耐性であった。アンピシリン(ABPC)耐性株の割合は、国内例で84%を占め、輸入例の30%に比べ明らかに高値であった。また、ホスホマイシン(FOM)あるいはニューキノロン剤のオフロキサシン(OFLX)に耐性を示す株が国内例、輸入例ともに検出されている。

追記:1999年4月から、伝染病予防法に代わり「感染症新法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が施行される。新法では、細菌性赤痢は2類感染症に分類され、いままで通り有症者、疑似患者、保菌者の全例報告が義務づけられるが、旧法時代とは異なり、保菌者は法的な入院対象から除外され、また診断時に患者の症状が消失していれば原則として入院勧告の対象にならない等の状況に応じた措置が執られるようになる。それに代わる対策として、サーベイランスが強化される。

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