東京都下飼育ブタ血清の日本脳炎ウイルスに対する抗体保有およびウイルス分離状況

流行予測事業における日本脳炎の感染源調査として、1998年4月〜1999年3月の間に、都下多摩地区で飼育された 809頭のブタから採血を行い、日本脳炎(日脳)ウイルスに対するHI抗体保有およびウイルス分離状況を調査した。

採血対象となったブタは、都下多摩地区8市(M、H、T、O、Mi、S、Hi、A)で飼育され、屠場に搬入された肉豚である。屠殺時に血液を採取し、その血清を供試検体とした。

 1.日脳ウイルスに対するHI抗体保有状況

1998年度8月下旬以降の抗体保有状況を表1に示した。今季は、8月31日に採取したブタ血清で2ME感受性抗体陽性、すなわちIgM抗体を保有した2頭のブタの存在により流行の始まりが示唆された。9月中旬以降HI抗体保有率は上昇し、11月初めには今年度最高の保有率である48%を示したが、東京都においては「日脳ウイルス汚染地区」*に指定されるまでには至らなかった。2ME感受性抗体を持つブタは、8月下旬〜11月初旬の2カ月間にわたって確認された。

東京都におけるブタの飼育地は限局されている。ブタが日脳ウイルスに感染する比率は、飼育地ごとで著しく異なっていた。飼育地別に日脳ウイルスの抗体保有率をみると(表2)、年間通じて血清が採取できたM市においては、ほとんどHI抗体を保有しておらず、10月12日に8頭中1頭(13%)、11月2日に13頭中2頭(15%)のブタが、またO市では10月5日に23頭中1頭( 4.3%)、10月19日に27頭中4頭(15%)が抗体を持っているにすぎなかった。今回ウイルスが分離されたMi市(0〜55%)では、10月5日に17頭中7頭(41%)が抗体陽性で、そのうち4頭(24%)が2ME感受性抗体陽性であった。また、11月2日は33頭中18頭(55%)が抗体陽性で、うち1頭(3%)が2ME感受性抗体陽性であった。同じくウイルスが分離できたT市(0〜33%)では、10月12日に27頭中9頭(33%)が抗体陽性で、そのうち5頭(19%)が2ME感受性抗体陽性であった。また、今年度の調査期間中血清搬入が2回のみであったH市は、8月31日に5/8=63%(2ME感受性抗体陽性率25%)、10月12日2/5=40%(2ME20%)と抗体保有率は高かった。Hi市は10月26日3/3=100%、11月2日4/4=100%と検体数は少ないが全検体が抗体を保有していた。

 2.日脳ウイルスの分離

1998年8月3日〜12月14日に採取したブタ血清のうちHI抗体陰性400件について、乳のみマウスの脳内接種法によるウイルス分離を行った。

2ME感受性抗体保有率が高かった10月5日と10月12日に採取したブタ血清2件から日脳ウイルスを分離した(10月5日採取ブタ血清10頭中1頭;飼育地Mi市:JaTAn1/98、10月12日採取ブタ血清18頭中1頭;飼育地T市:JaTAn2/98)。2ME感受性抗体保有率とウイルス分離試験結果から、ブタ集団における日脳ウイルス伝播の期間は9月下旬〜11月初旬の2カ月間であったことを確認した。

東京都は、ブタのHI抗体保有状況から「日脳ウイルス汚染地区」*には至らなかった。しかし、ウイルスが分離されたことでウイルスの存在が確認でき、人が感染する機会は消失していないことが明らかとなり、「流行予測事業」は今後とも継続して詳細に調査していく必要性を認めた。

日本脳炎ウイルス汚染地区:(1)ブタのHI抗体陽性率が50%以上、かつ(2)2ME感受性抗体陽性のブタが一頭以上存在する地区として規定される。

東京都立衛生研究所微生物部
吉田靖子 新開敬行 平田一郎

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