大阪府における近年の日本脳炎の流行状況

日本脳炎は1960年代には全国的に大流行し、大阪府内においても多数の患者発生がみられた。しかし、1992年以降、患者発生数は激減し、その後も低流行状況が続いている。この間、大阪府において行われてきた日本脳炎の疫学調査から、近年の状況について報告する。

府内における日本脳炎患者は1994年に1名の届け出を最後に、発生の報告はない。

ウイルス媒介蚊の発生源である水田面積が年々減少した結果、コガタアカイエカの発生数は減少し、1984年頃は一夜で380,000匹も採集された地区が、1996〜1997年には連続して7〜8月の平均採集数が約5,000匹となった。この野外採集蚊からのウイルス分離状況にも変化がみられた。すなわち、ウイルス分離率(蚊の採集プール数に対するウイルス陽性プール数)は1992年までおよそ10%であったが、1993年以降は0.6〜3.7%に低下し、1995、1997、1998年の各年においてウイルスは分離されなかった。またウイルスが分離された地域も年々府下の環境の変化に伴って1991年以降、府下全域から南部地域に限局していく傾向がうかがえる。

ウイルス媒介蚊発生数の減少や、ウイルス分離率の低下はブタの感染状況にも影響を及ぼしているとみられた。1985年〜1994年まで、7〜9月の屠場出荷ブタの血清中の日本脳炎ウイルスに対する平均HI抗体価(5×2n)は、n=3.52であったが、1995〜1998年はn=1.14と低下している。特に1998年は9月中旬になってから、19頭中2例が陽性(1:80)という低流行状況であった。

大阪府民の日本脳炎ウイルスに対する中和抗体の保有状況は、全国的に大流行していた時期で約98%であった。発生患者数が一桁台であった1985年では、全体の保有率は68%で、さらに1996年度の調査では全体の保有率は48%に低下し、年齢別では特に30〜50歳代で抗体保有率の低下が顕著であった。

以上、大阪府における日本脳炎の疫学調査の結果、低流行状態が続いてはいるが、日本脳炎ウイルスは府内一部地域に存続していると考えられる。府下住民の抗体保有率も低下してきている状況下では、今後も流行監視は必要であろう。また近年、東南アジア諸国では毎年、日本脳炎患者が発生しており、これらの地域へ渡航する際にはワクチン接種等の予防措置が必要であると考えられる。

大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課
木村朝昭 弓指孝博 奥野良信

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