蚊からの日本脳炎ウイルスの分離とその遺伝子解析(1998)−石川県
近年、本邦における日本脳炎の患者数は激減している。しかしながら、ブタでの感染は続いていることなどからウイルス(JEV)は依然として存在していると考えられている。ブタ飼育および水田も多い石川県での状況もそれに近いと推定される。石川県におけるJEV分布を調べるために蚊からのウイルス分離を試みた。
1998年8月、石川県河北郡の豚舎に近い水田の辺りにてドライアイストラップ法を行い、媒介蚊のコガタアカイエカを200匹採集した。それらを10匹づつ20プールに分け、破砕した後、抽出液を培養細胞株Veroにかけ、ウイルス分離を行った。2プールに陽性が認められ、JEV特異的プライマ−を用いたRT-PCRによっても特異的産物が確認された。分離継代されたウイルス株、U1およびU2はそれぞれ培養細胞株Veroおよび蚊細胞株C6/36においてJaGAr01株と同等レベルの感染増殖性を示した。
ウイルス感染に重要な役割を果たすエンベロ−プ蛋白(E蛋白)について遺伝子解析を行った。方法はRT-PCR法によって産生されたDNAを精製し、直接的にヌクレオチド配列を決定する方式で行った。その結果、代表的なJEV-JaGAr01株との差異は分離株U1で4箇所、U2で3箇所あり、アミノ酸配列の比較では分離株U1で2箇所、U2で1箇所が異なっていた。配列結果は、2株ともにJaGAr01およびJaOArS982のそれとの相同性が高く、いわゆる強毒株の範疇に含まれることを示唆している。
石川県における生息JEVが病原性の強いウイルスであることは、今後、日本脳炎患者発生が起きうる可能性を提示しており、注意が必要であろう。またウイルス病原性の変動の有無について調べるためにも、継続してウイルス分離を行い性状の解析を進めることが重要である。
金沢医大総合医学研究所 竹上 勉