世界における日本脳炎の状況

日本脳炎はアジアとオーストラリアでの発生が報告されている。アジアにおいては、日本、韓国、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、ラオス、マレーシア、ミャンマー、インドネシア、バングラデシュ、インド、スリランカ、ネパール、パキスタン等、東アジアから南アジアにいたるほとんどの国において発生が知られている。過去日本脳炎の報告のなかったパプアニューギニアにおいても1997年初めて、次いで1998年にも患者発生の報告がなされた。オーストラリアにおいては1995年にトレス海峡のBadu島、1998年にBadu島とヨーク岬半島において日本脳炎患者の発生が報告されており、アジア以外の地域への日本脳炎ウイルスの広がりが明らかとなった。

現在、世界的には年間3〜4万人の日本脳炎患者の報告がある。患者数の多い国としては、中国年2〜3万人、インド年3,000人、ネパール年2,000〜3,000人、ベトナム年2,000〜3,000人、タイ年1,000〜2,000人、スリランカ年100〜300人等である。一方、日本、韓国では年間10人以下である。しかし、これらの数値は実際の患者数よりかなり少ないと考えられる国が多い。実数については不明であるが、米国CDCのTsai博士は以下のような計算を行っている。日本脳炎ウイルスの侵淫地域に住む、日本脳炎に感受性の高い15歳未満の人口は約7億人である。日本脳炎の発生は1万人に2.5人と予想されるので、この地域では年間175,000人の患者数と推察される。致死率25%とすると43,750人が毎年日本脳炎で死亡している計算になる。

日本脳炎に対してはマウス脳由来不活化ワクチンが存在する。このワクチンは日本脳炎の発症を90%以上防御することが報告されている有効なワクチンであり、国際的に受け入れられている唯一のものである。現在、日本、韓国、台湾、ベトナム、タイ、インドで生産されている。しかし、価格が高いことや生産量が十分でないこと等から日本脳炎ウイルスの全侵淫地域において広く使用されているわけではない。一方、中国においては、弱毒生ワクチンと組織培養不活化ワクチンが使用されているが、これらはまだ国際的には認められていない。現在、新たなワクチンとして中国のものとは異なる組織培養不活化ワクチン、黄熱ワクチンと日本脳炎ウイルスとのキメラワクチンの開発が行われているが、いずれも実用化には至っていない。

国立感染症研究所ウイルス第一部 倉根一郎 高崎智彦

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