1998/99シーズンにおける感染性胃腸炎患者からの小型球形ウイルスの検出−山形県

今シーズン(1998/99)における小児のSRSVによる感染性胃腸炎の実態を把握するため、検査定点より依頼のあった患者糞便についてSRSVの検査を行ったので報告する。

材料および方法など:1998年12月〜1999年4月のあいだに、県内の2つの検査定点(勝島小児科医院、市立荘内病院小児科)から寄せられた、ウイルス性胃腸炎を疑われる計 134件の下痢症患者の糞便を材料とした。糞便は、いずれもロタウイルス、腸管アデノウイルス陰性で、患者の症状は吐き気、嘔吐、下痢が主であった。年齢層は0歳〜3歳が中心であった。方法は、P35/36・NW81/82/SM82およびMR3/4・Yuri22F/22Rの2系統のプライマーセットを用いたRT-PCR法(Nested)で行った。

結果および考察:はじめに、本シーズンの感染性胃腸炎患者の地区別患者報告数の推移を図1に示した。勝島小児科医院は、県中心部の山形市(村山地区)にあり、市立荘内病院小児科は日本海側の鶴岡市(庄内地区)に位置している。村山地区では10月〜11月にはすでに患者報告数が増加しているが、この時期における庄内地区での患者報告数は少なく、1月に入ってから急増しており、両地区では患者発生の動向に違いが見られた。定点における月別の検査件数とSRSV陽性数を表1に示した。134検体中61検体からSRSVの遺伝子を検出し、検出率は全体で46%であった。検査依頼は12月から始まり、4月まで続いたが、1月が45検体、3月が43検体と多かった。月別の陽性率をみると、12月は54%(12/22)、1月は69%(31/45)と高かったが、2月が45%(9/20)、3月が21%(9/43)、4月が0%(0/4)と次第に低下していった。この傾向は両定点ともに同様であった。陰性であった検体については、札幌群やプライマーの不一致を示すSRSV、他の下痢症ウイルスの関与などが推測された。なお、ウイルス検査が陰性だった検体の細菌検査については、両定点において、病原大腸菌、薬剤関連性細菌など数株が分離されたのみであった。定点医からの情報によると、村山地区の10月、11月の患者報告の中には、腸管アデノウイルスが比較的多く含まれており、今シーズンのロタウイルスの流行は、村山、庄内両地区とも3月〜4月がピークであった。したがって、今シーズンのSRSVの流行は、ロタウイルスの流行に前駆して12月〜3月に発生したと考えられた。

次に、検出されたSRSVの遺伝子型について2つの定点の間で比較した(図2)。PCR法において、P35/36系またはYuri系プライマーセットのみで増幅されるものと、両方のプライマーセットで増幅されるものがあり、2つの定点でその割合に違いが見られた。すなわち、勝島小児科医院では両方のプライマーセットで増幅されるものが多く(陽性数の69%)、市立荘内病院小児科ではどちらか一方のプライマーセットで増幅されるものが比較的多かった(P35/36、Yuri系合わせて54%)。月別にみると、12月の勝島小児科医院は両方のプライマーセットで増幅されるもののみで、市立荘内病院小児科はYuri系プライマーセットのみで増幅されるもののみであった。その後1月以降はどちらの定点も混在して検出された(表2)。このことは、SRSV遺伝子の多様性を示唆している。

昨シーズン(1997/98)のカキを摂食して起きた集団食中毒事例と感染症発生動向調査の中で検出された事例では、いずれも両方のプライマーセットで増幅されるものが検出された。カキとは関連の認められない保育園施設における集団食中毒は、鶴岡市内の2カ所の施設で同時に発生しており、患者から採取した糞便はすべてYuri系プライマーセットのみで増幅されるものであった。SRSVによる感染性胃腸炎は、食品を介しての感染あるいはヒトからヒトへの感染が推測されているが、ウイルスに多様性があり、その発生動向に地域差が見られることから、今後も注意深く発生の動向を調査する必要があると思われた。

山形県衛生研究所
村田敏夫 後藤裕子 水田克己 村山尚子 早坂晃一
勝島小児科医院 勝島矩子
鶴岡市立荘内病院小児科 伊藤末志

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