The Topic of This Month Vol.20 No.10(No.236)
結核予防法では医師が結核患者を診断した場合、2日以内に最寄りの保健所に届け出る(結核予防法第22条)。患者の登録は、患者の住所地を管轄する保健所で行う。1987年から患者発生のデータは毎月および年末に、保健所→都道府県・政令指定都市→厚生省を結ぶコンピュータ・オンラインにより集計されている。財団法人結核予防会結核研究所が集計結果を解析し、年報を編集している。
本特集では、主に、1999年9月24日に公表された「1998年結核・感染症発生動向調査年報集計(概況)」(厚生省保健医療局結核感染症課、財団法人結核予防会協力)に基づき、結核発生状況について述べる。
死亡数:1998年の結核死亡者は2,795人(前年比53人増)で、死亡率は人口10万対2.2となっている(厚生省人口動態統計)(図1)。結核は1935年(人口10万対190.8)〜1950年(人口10万対146.4)まで、死因順位の第1位を占めていたが、その後下降し、1998年では第22位となった。年齢階級別結核死亡率は、加齢に伴い増加している。
登録者数:1998年の新登録結核患者は44,016人(前年比1,301人増)、罹患率(年間新登録患者数÷総人口×10万)は人口10万対34.8(前年比0.9増)で2年連続増加している(図2)。年齢階級別の新登録患者数において、70歳以上は15,850人(前年比1,146人増)、また、この年齢階級の罹患率は人口10万対116.1であり、高齢者の結核が増加している。
結核は空気伝播で感染する疾病であり、結核菌を排菌している患者は他への感染源となる可能性が高い。排菌の指標となる塗抹陽性患者数は16,294人(前年比 327人増)、また、罹患率は12.9(前年比0.2増)であった。塗抹陽性患者の内訳では、70歳以上が大きく増加し、6,093人(図3)であり、全体の1/3以上を占めている。
1998年12月31日現在、全国の保健所に登録されている結核患者は113,469人(前年比8,293人減)、そのうち治療を必要とする活動性全結核患者(有病者)は53,741人(前年比1,668人減)(図4)で、その85%以上を活動性肺結核患者が占めている。患者数および罹患率と同様、高齢者で有病率(有病者数÷総人口×10万)が高い。
地域格差:都道府県別からみた罹患率では大阪府(大阪市を含む)70.1、兵庫県49.2、徳島県46.2が高く、長野県16.7、福井県22.5、山梨県22.7が低い。塗抹陽性罹患率、有病率も同様に西高東低の傾向にあり、地域格差が生じている(図5)。さらに、都市部では結核が増加する傾向がみられる。都市部罹患率は大阪市106.7(前年比2.9増)、神戸市57.6(7.2減)、名古屋市45.0(0.3減)、京都市43.3(3.4増)、北九州市41.0(2.2減)で高い。保健所別の罹患率(1997年)は、大阪市西成506.6を筆頭に、大阪市浪速(260.7)、神戸市兵庫(116.2)、東京においても台東区台東(106.0)、新宿区新宿(99.0)で高く、住居不定者や雇用の不安定な単身者が集中している大都市部の特定地区では結核が深刻な問題になっている。
集団感染:集団感染は「同一の感染源が2家族以上にまたがり、20人以上に結核菌を感染させた場合を集団感染と呼ぶ。ただし、発病者1人は6人が感染したものとみなして感染者数を計算する」と定義されている。近年、学校や医療機関での結核の集団感染(1995年15、1996年20、1997年42、1998年44事例、そのうち院内での集団感染1995年3、1996年9、1997年7、1998年11事例)が報告され、増加傾向にある。院内感染は、結核病床を有する病院においても、結核病床を有しない病院においても発生しており、留意する必要がある。
薬剤耐性:多剤耐性結核菌は、化学療法の中核であるイソニコチン酸ヒドラジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両薬剤同時耐性と定義される。全国的な調査ではないが、日本における多剤耐性結核患者数は、1,500〜2,000人程度、また、年間の発病者数は約80人と推測されている。多剤耐性結核の増加は、結核対策が抗結核薬開発以前の時代に逆戻りする危険性を示唆し、全世界共通の問題である(本号3ページ参照)。
世界の状況:1997年に173カ国から世界保健機関(WHO)に報告された結核患者数は計3,368,879人(人口10万対58)で、うち塗抹陽性患者数は1,292,884人(38%)であった(本号12ページ参照)。全世界では毎年800万人が発病、300万人が死亡し、有病者は2,200万人と推計されている。WHOは1993年4月に「結核非常事態宣言」を発した。
おわりに:わが国の結核対策は、結核予防法に基づいて行われており、健康診断、予防、患者管理、結核医療、結核発生動向調査、特別推進事業(地域格差対策)を根幹として体系化されている。しかし、結核対策上、わが国で対応を迫られている問題点として、1)一般国民、医療関係者、行政の結核に対する認識の低下、2)臨床医の結核診断能力の低下、3)高齢結核患者の増加、4)蔓延状況の地域格差、5)集団感染の増加、6)多剤耐性結核の出現、などがある。さらに、より簡便、迅速かつ特異的な結核菌感染の検査法の研究開発が望まれる。今後、再興感染症として、結核の重要性を認識し、感染源対策として確実な治療を行い予防対策を推進することが必要である。