病院の風呂が感染源と推定されたレジオネラ肺炎の1例
(Vol.21 p 191-192)

症例:70代、女性

現病歴:2000(平成12)年5月下旬、間質性肺炎にて入院、ステロイド内服薬による治療を受けていた。症状の改善に伴い週末は外泊を繰り返しており、6月16日〜18日まで外泊。また6月23日早朝から再び外泊したものの発熱などの体調不良のため、6月25日帰院。6月22日にはCRP 0.2mg/dlと感染症兆候はなかったが、外泊後の6月26日には胸部レントゲンで右上肺に大葉性肺炎像および血液データにてWBC 1,900/μl、CRP 53.3mg/dlと重症肺炎となっていた。抗生物質の投与が開始されたが、全身状態の悪化もあり、集中治療部にて呼吸管理などの集中治療を施すも効果見られず、6月28日死亡した。

細菌検査:喀痰および気管支洗浄(6月27日採取)の塗抹検査ヒメネス染色にて好中球内に存在する桿菌を検出、レジオネラ菌が疑われた。培養検査では、Legionella pneumophilaが検出された。血清群(SG)1〜6に反応せず、血清群はN/A(非凝集型)とした。菌の同定はDDH法および抗血清による凝集反応で行った。

レジオネラ症に関連する病歴:自宅浴槽は24時間風呂ではない。外泊中に温泉地へ出かけたことはない。また職業は無職である。

レジオネラ症に関する入院環境の情報:入院中は主として病棟内のシャワーおよび洗面台を使用。時に病院内展望風呂(24時間風呂)を使用していたとの情報あり。加湿器、ネブライザー吸入器は使用せず。散歩で近くの公園(噴水あり)まで出かけることあり。

病院内の水中のレジオネラ菌検査:展望風呂の女湯よりL. pneumophila N/AとL. pneumophila SG6の菌株を検出、菌量は約100 CFU/100mlと推定された。同定は患者由来菌と同じくDDH法と抗血清による凝集反応で行った。その他展望風呂男湯、展望風呂のカラン、シャワー水、病棟内カラン、シャワー水からはレジオネラ菌は検出されなかった。公園の噴水や、患者自宅の風呂水からも検出されなかった。

レジオネラ菌のタイピング:患者から検出されたレジオネラ菌と女湯より検出されたレジオネラ菌のPCR法を用いたタイピングを行った。3種類のプライマーを用いたRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA Analysis)を行い、患者菌と女湯のL. pneumophila N/A菌とが類似したパターンを示し、同湯からの感染が疑われた()。

レジオネラ菌による院内感染の発生:本症例を除いては同時期にレジオネラ症の発生を見ていない。

考察:レジオネラ院内肺炎の1例を経験した。従来、レジオネラ院内肺炎は冷却塔水、加熱が不十分な給湯施設や消毒が不十分な加湿器がその原因とされてきた。今回我々は、病院の24時間風呂が原因と考えられた症例を経験し、同様の施設を有する医療関係機関に注意を促したい。

24時間風呂は患者アメニティのために本院に導入された。長時間一定温度にお湯の温度が保たれるため、入浴時間の制限が少なく、昼間ならいつでも入ることができる。またランニングコストも抑えることができる。しかし、24時間風呂におけるレジオネラ菌の汚染は以前から指摘されてきた。

開発当初の24時間風呂では10,000CFU/100ml程度の大量のレジオネラ菌が検出されており、社会問題化した。その後、装置の改良により100CFU/100mlを望ましい範囲と業界の自主規制で規定した(1997年)。その後、1999年11月厚生省より建築物等におけるレジオネラ症防止対策について(生衛発第1679号、本号7ページ参照)が出され、10CFU/100ml未満と実質検出限界以下という非常に厳しい指針が示された。現存する24時間風呂がどれくらいこの基準に適応するのか公表されていないが、業界の迅速な対応を望むものである。

24時間風呂を含めた循環式浴槽における感染事例は、欧米およびわが国でも報告されている。特に日本においては近年様々なレジャー施設のみならず、公衆浴場や高齢者福祉施設にも導入されている。医療施設でどの程度導入されているかは不明であるが、レジオネラ菌が健常者にも感染しうる菌であることから、易感染性宿主が多い医療関係機関ではより厳密な管理を要するであろう。

本症例は外出機会が多かったことや、他の入院患者よりレジオネラ感染症の発生がないことなどから厳密な意味では院内肺炎であるとの確定はできない。しかし、レジオネラ菌が検出されたのが当院の女湯のみであったこと、患者はステロイド内服中の易感染性宿主であったこと、さらには菌のタイピングが一致したことより、女湯中のレジオネラ菌が感染した可能性が高いと考える。同様の施設を有する医療機関では厳重なレジオネラ菌管理が望まれる。

参考文献
厚生省生活衛生局企画課監修:レジオネラ症防止指針(1999)、財団法人ビル管理教育センター

名古屋大学医学部附属病院検査部感染症 飯沼由嗣

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