Vibrio vulnificus による死亡例−新潟県
(Vol.21 p 243-243)

発病後1日半、入院後約12時間で死亡した敗血症の60歳男性の血液培養から、Vibrio vulnificus が検出されたので概要を報告する。

臨床経過:2000年9月21日夕方から下腹痛、軟便、発熱あり、翌日朝に救急車で来院した。来院時、意識は明瞭で下腹部の疼痛を訴え、軽度膨隆あり、筋性防御なし、腸鳴弱く、全身に淡い発赤調の小皮疹が多発していた。血圧104/80、脈拍110/分・整、体温38.6℃。血算上、白血球5,000/μl、血小板3.5万/μlと血小板の著しい減少が認められ、腹部単純写真で鏡面像はないものの小腸ガスが多く、腹部エコ−では肝表面の不整と少量の腹水が認められた。何らかの感染症や悪性腫瘍による腸管運動抑制、敗血症、汎血管内凝固の状態と考えて入院とした。抗生物質を使用する前に便培養と血液培養を提出した。皮膚や粘膜の状態は高度の脱水所見を疑わせたため、多量の補液を行ったが尿量は40〜50mlしか得られず、血圧は一時120〜130/70〜80に上昇したが、補液量を少なくすると血圧も低下した。抗生物質として、テトラサイクリン系とセフェム系を使用したが、発熱は続き、午後になると多呼吸となり呼吸困難を訴えた。血液ガスではpH 7.229、 PaO2 95.0mmHg、PaCO2 21.9mmHg、HCO3 9.1mmol/lと高度の代謝性アシドーシスを示しており、血算再検では白血球700/μl、血小板1.5万/μlと重篤化していた。アシドーシスの補正をし、エンドトキシン吸着等の治療も準備していたが、夕方には、大量のカテコラミンを使用しても血圧が上昇せず、意識が混濁し自発呼吸が困難となり、気管内挿管を行った。この頃には四肢の冷感と皮疹の癒合、一部水疱化が認められ、急速に循環不全が進み23時に心停止し、死亡した。

培養結果と原因について:後日、入院時の血液培養からV. vulnificus が検出されたが、便培養からは常在菌のみで有意な病原菌は検出されなかった。家族からの問診では、発症前日の9月20日の夕食時、妻と三女とともに生ガキを食べたという事実があったが、本人以外に全く症状は出現しなかった。食品の検査はできなかった。

V. vulnificus は、腸炎を起こすことは少なく、腸壁を通過し血流に容易に侵入する。生あるいは半生の魚介類を食して12時間〜3日後に急激な悪寒戦慄で発症し、急速にショックに至る。菌血症の50%以上、低血圧発症患者の90%以上は死亡すると言われ、特に慢性肝疾患やアルコ−ル依存症、免疫不全者では重症化するとされる。

急激な経過をとり重症化、あるいは死に至る可能性のある病原体として、V. vulnificus には今後とも注意が必要である。

新潟県立六日町病院
岸本秀文 井口清太郎 関谷寿子 城田信子 大野康彦

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