先天性風疹症候群対策−WHO
(Vol. 21 p 247-248)
先天性風疹症候群(CRS)の世界的な情勢と予防対策を総括するための会議が、2000年1月12日〜14日の間スイスのジュネーブで行われた。会議の目的は、CRSおよび風疹の疫学知見をまとめること、サーベイランスの必要性とワクチン接種戦略の評価、優先される研究課題の特定であった。
CRSにおける被害状況:CRSは聴覚障害、失明、精神発達遅延の重要な原因である。数カ国の資料によると、年間罹患率は出生1,000当たり0.4〜4.1であった。途上国だけで年間10万人以上のCRSが発症していると推定された。ワクチン接種率が80%を超えた国では、風疹ワクチンは(特に麻疹と組み合わせた場合)十分な費用対効果が得られることが示された。
風疹ワクチン採用の現状:2000年4月現在、214カ国のうち111カ国(52%)において風疹ワクチンは定期予防接種として使用されているが、経済状態の悪い国において導入率は低い。
風疹ワクチン戦略:CRS予防計画においては、妊娠可能年齢の女性に対する予防接種がなによりも優先される。乳児に対するワクチンは、長期にわたり予防接種率が80%以上を保つことができる場合にのみ、定期接種に導入するべきである。なぜなら、小児に対するワクチンが中途半端に運用された場合、風疹の伝播動態が変化を受けることにより妊娠可能年齢女性の感受性が増加し、結果的にCRS症例数の増加が起こりうるからである。風疹予防接種を導入するためには、以下を考慮しなければならない。1)妊娠可能年齢の女性の風疹に対する感受性、2)CRSによる被害状況、3)現行の定期予防接種実施状況、4)保健医療設備基盤、5)予防接種安全対策、6)風疹対策の優先順位。
CRS予防のためには次の1、2のいずれかの方針が推奨される。1.CRS予防のみを目指す場合には、若年成人女性および(もしくは)妊娠可能年齢女性を対象とするべきである。2.風疹およびCRSの根絶を目指す場合には、サーベイランスを行い、妊娠可能年齢女性の免疫保有状態を把握しながら、すべての乳児に対するワクチン接種を行うべきである。麻疹根絶活動が実施されている場合、MR、またはMMRワクチンを使用して、同時に風疹対策を実施すべきである。
風疹ワクチン接種率動向調査、サーベイランス、実験室診断:ワクチン接種率に関しては、正確・迅速な方法で地域別、年齢別に調査すべきである。特に、一般医療施設での風疹ワクチン供給状況は、風疹伝播動態に影響を与えるため、注意深くモニターすべきである。また、サーベイランスは予防接種効果の継続的な監視を目的としており、次の3つの活動が推奨される。1)CRS症状を呈する小児の調査、2)風疹集団発生後のCRSサーベイランス、3)妊娠可能年齢の女性に対する血清疫学。麻疹根絶計画のための発熱性発疹疾患サーベイランスが行われている場合は、麻疹との鑑別のためにも実験室診断を確立すべきである。さらに世界規模の麻疹-風疹実験室ネットワークの構築が必要である。
研究課題:風疹ワクチンの需要量、供給量、生産能力の継続的な調査;途上国におけるCRS の被害状況調査;実験室診断の標準化;CRS患者からのウイルス分離とそれらを用いた血清疫学調査;非侵襲的な検査法の研究;生後6カ月以後のCRS 確定診断方法の研究が課題としてあげられた。
(WHO、 WER、 75、 No.36、 290-295、 2000)