The Topic of This Month Vol.22 No.4(No.254)
細菌性赤痢は、以前は伝染病予防法(旧法)に基づく法定伝染病として届け出が義務づけられていたが、1999年4月施行の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では2類感染症に位置づけられている。したがって患者、疑似症患者および無症状病原体保有者(保菌者)を診断した医師は速やかに最寄りの保健所を通じて都道府県知事に届けなければならない。なお、アメーバ赤痢は4類感染症に位置づけられている。
本特集では1999年と2000年の2年間のわが国における細菌性赤痢の発生状況について報告する。発生報告は、1)感染症法による患者・保菌者の届け出(感染症発生動向調査)、2)地方衛生研究所からの赤痢菌検出報告(病原微生物検出情報)に基づいて述べる。
感染症発生動向調査によると、細菌性赤痢の届出は1999年4〜12月581人、2000年1〜12月821人、計1,402人(男性677人、女性725人)で、推定感染地別にみると国外感染例(輸入例)968(69%)、国内感染例(国内例)376(27%)、感染地不明例58(4.1%)であった。月別発生状況をみると、輸入例は8〜9月および3〜4月にピークがみられた。一方、国内例は1999年9〜10月と2000年10〜11月に増加がみられた(図1)。ちなみに、1999年1〜3月の旧法(伝染病統計)による細菌性赤痢の届出は 218人(疑似症は含まない)であった。
輸入例の年齢分布をみると20代が多く、男性は20〜24歳、女性は25〜29歳がピークで、20〜34歳の各年齢群では女性の方が多かった(図2)。推定感染地はアジアが多く、特にインドとインドネシアで31%を占めた(図3)。発生の多い感染地はここ数年間同様の傾向であった(本月報Vol.20、No.3参照)。また、インドでの感染例240人中122人、インドネシアでの感染例201人中114人が女性で、男性をやや上回っていた。
病原微生物検出情報に基づいた1985〜2000年の16年間の赤痢菌の検出状況を表1に示す。血清群別での頻度は各年とも同様の傾向で、S. sonnei が最も多く、S. flexneri がこれに次いでいる。S. boydii とS. dysenteriae は少なく、主に輸入例から検出されている。1998年に国内例からの検出が増加したS. flexneri 2aが、1999年にも多数検出された(本号4ページ参照)。1999〜2000年に地方衛生研究所(地研)および保健所で確認された赤痢菌の報告数は患者報告数に比べて少なく、特に輸入例の数が減少している。その理由の一つとして、感染症法施行後、海外旅行者の検便提出が自己申告制になり、地研での検査件数が減少していることが指摘されている(東京都微生物検出情報Vol.22、No.1、p.1参照)。
1999年および2000年に病原微生物検出情報に報告された赤痢集団事例は表2のとおりである。1999年の集団発生は4件で、発生地は事例3のみが国外、後の3件は国内で、発生原因(感染源・感染経路)はいずれも不明であった。原因菌は事例1、2がS. sonnei 、事例3、4がS. flexneri 2aであった。事例4は保養施設宿泊者の集団発生事例で、疫学調査に従来の血清群・型別および薬剤感受性試験の他に遺伝子解析を実施した結果、複数グループ由来株のPFGEパターンが完全に一致し、同じ日に宿泊した複数のグループが同一の菌に感染したことが示唆された(本月報Vol.21、No.4参照)。
2000年の集団発生は3件で、発生地は3事例とも国内、原因菌はすべてS. sonnei であった。事例5は赤痢菌に感染した寿司店従業員の握った寿司を喫食することによって多数の客が感染した事例で、患者は愛媛以外に、愛知、大阪、兵庫、島根、岡山、広島、高知、大分に及んだ。分離株の薬剤感受性および遺伝子解析結果(PFGEパターン)も一致した(本月報Vol.22、No.2参照)。
1999年および2000年に都市立指定感染症医療機関で行われた赤痢菌の薬剤感受性成績を表3に示す。国内および輸入例とも82%以上がスルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤およびテトラサイクリンに耐性であった。アンピシリン耐性株の割合は、国内例で75%を占め、輸入例の35%に比べ高率であった。1996〜1998年には現在注目されているニューキノロン剤のオフロキサシン耐性菌4株の報告があったが(本月報Vol.20、No.3参照)、1999〜2000年の分離菌株ではニューキノロン剤耐性菌は検出されなかった。
現在の検査体制では、まず検疫所、一般医療機関または民間検査所が海外帰国者や国内散発および集団発生時の患者からの赤痢菌検出を行っている。保健所や地研は、主に患者が届出によって探知された後、疫学調査に伴う病原体検査を実施している。迅速に感染源・感染経路を特定し、感染拡大を防ぐためには、赤痢菌を検出した検査機関と血清型別・薬剤感受性試験・遺伝子解析などを行う地研との一層の連携が望まれる。
1999年12月28日食品衛生法施行規則が一部改正され、赤痢菌は食中毒病因物質に追加された(生衛発第1836号)。食品の介在が疑われる赤痢の発生に際しては、食品からの赤痢菌の検出も大切である。