オウム病集団発生事例に関連した病原体の分子生物学的検討

(Vol.23 p 248-249)

2001年12月に島根県のA鳥展示施設で起こったオウム病集団発生(本号3ページ参照)を受けて、 その原因究明のため、 飼育鳥のオウム病検査、 ならびに患者血清についての検討を行った。A施設での患者発生は2001年10月30日に千葉県のB鳥展示施設等から21羽の鳥を移入した後に見られたため、 当初これらの移入鳥が感染源として疑われた。そこで感染源を究明するため、 同じB施設から鳥を移入した国内C鳥展示施設の協力を得て、 C施設の鳥からChlamydia psittaci の検出を実施し、 A施設で得られた病原体と国内分離株を含めて分子生物学的に比較検討した。

鳥の総排泄腔スワブのPCR検査でクラミジア遺伝子陽性であった18検体(A施設9検体、 C施設9検体)のPCR産物、 および同材料から分離したクラミジア7株(A施設6株、 C施設1株)について、 主要外膜蛋白(MOMP)遺伝子配列を決定し比較した。また、 AおよびC施設からの分離株の基本小体(EB)を精製し、 SDS-PAGEによる泳動パターンを比較すると同時に、 鳥由来標準株6BC や、 従来の国内発症オウム病症例の鳥分離株とも比較した。

AおよびC施設の鳥から得られたPCR産物や、 分離株のMOMP遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列は、 それぞれの施設内ではすべて一致していた。一方、 C施設株の遺伝子配列が鳥由来標準株6BCならびに、 従来の国内発症オウム病症例のインコ分離株と2〜0塩基対の相違で、 同じく国内発症オウム病症例ハト分離株と4〜5塩基対の相違のみで非常に類似していたのに対し、 A施設株の遺伝子配列はこれらと14〜18塩基対の相違があり、 大きく異なっていた。表1に2施設の分離株と他の鳥分離株のMOMP遺伝子塩基配列、 および推定アミノ酸の相同性を示した。また、 EB蛋白質のSDS-PAGE泳動パターンを比較した結果、 図1に示したようにA施設株のMOMP分子量は約42kDa 、 一方、 C施設株および国内標準株Budgerigar No.1のMOMP分子量は40kDaで、 これらの株間で差が見られた。

そこでさらにA施設で感染した患者の血清(micro-IF-IgG 1:8,192)を用いて、 2施設由来株の精製EB蛋白との反応性についてウエスタンブロッティング法(WB)にて比較解析した。患者血清ではA施設株のMOMP 42kDaに対してのみ特徴的に反応するバンドが認められ、 C施設株およびBudgerigar No.1に対しては認められなかった。

以上のことから、 今回の集団発生の原因株はB施設からの移入鳥由来株や、 他の従来の国内分離株とは異なり、 A施設内で従来から飼育されていた鳥の保有株であった可能性が高いと考えられた。また今後、 A施設株については類似株の探索を含めてさらに検討する必要があるが、 鳥由来C. psittaci の人への感染株の特定が、 本株を用いた患者血清のWBで推定できたことから、 今後、 人の感染源の検索に有用な方法になり得る可能性が示唆された。

国立感染症研究所・ウイルス第一部
蔡 燕 小川基彦 志賀定祠 アグス・セティヨノ 岸本寿男 倉根一郎
松江保健所 新田則之
島根県保健環境科学研究所 田原研司 板垣朝夫
岐阜大学農学部獣医学 道越小雪 福士秀人

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