Salmonella Saintpaulによる食中毒事例−岐阜県

(Vol.24 p 182-183)

2002年10月15日11時に東濃地域保健所にA市のB飲食店から10月11日に食事を提供された客が腹痛、 下痢等の食中毒様症状を呈している旨、 通報があった。調査の結果、 B飲食店で提供された宴会料理を食べたグループ30名中27名(90%)が発症し、 うち7名が医療機関を受診、 2名が入院したことが判明した。主な症状は、 下痢(96%)、 腹痛(74%)、 頭痛(63%)、 発熱(59%)、 倦怠感(59%)、 悪寒(48%)等で、 潜伏時間は16〜76時間(平均40.7時間)であった。医療機関による検査で患者16名の便からSalmonella Saintpaulが検出され、 患者の共通食はB飲食店の料理のみであったことから、 本事例はB飲食店を原因施設とするS . Saintpaulによる食中毒と断定された。

汚染源究明のため調理従事者検便5件、 施設のふきとり検査10件を行ったが、 食品については残品がなく細菌検査を行えなかった。検査の結果、 調理従事者(C)1名からS . Saintpaulを検出した。Cは料理の盛り付けを行っており、 10月3日、 4日頃下痢症状を呈していたが、 10月11日に患者に提供した料理の残品を摂食していた。本事例の高い発症率とサルモネラが感染型の食中毒であることを考えると、 汚染菌は食品中でかなりの菌量に増殖していたものと考えられる。提供された食品の盛り付けから摂食までは短時間であり、 盛り付け時に手指から汚染した可能性は低く、 Cを汚染源とは考えにくい。従って、 盛り付け以前に何らかの原因で汚染されていたと考えられた。料理のメニューは、 刺身、 天ぷら、 焼き魚、 松茸鍋、 酢の物等であったが、 摂食調査によっても原因食品は推定されなかった。

本県では2000年9月にも本血清型による食中毒が発生しており、 また、 2000年4月に開始したサルモネラ症発生動向調査においても散発下痢症患者や健康保菌者から本血清型が多数検出されている(本月報Vol.22、 No.2、 36-38参照)。そこで、 本血清型による食中毒の汚染源解明の一助とするため、 本事例由来17株、 2000年に発生した食中毒患者由来1株、 2000年4月〜2002年3月までに県内で分離された散発事例由来140株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による比較を行った。

制限酵素Xba IおよびBln Iによる切断パターンを比較したところ、 本事例由来17株はすべて同一のパターンを示すことが確認された。本事例由来株と2000年に発生した食中毒由来株の比較では、 Xba Iではバンド2本、 Bln Iでは390〜430kbあたりのバンドのサイズに違いが見られた(図1)。

散発事例由来株はXba Iでは10パターン、 Bln Iでは12パターンに分かれ、 切断パターンの組み合わせで25の型に型別された(図2)。本事例由来株は、 X4B3型と同一のパターンを示した。X4B3型の散発事例由来株は2000年に1株(57株中1.8%)、 2001年に9株(83株中11%)検出されていた。

本血清型は、 わが国では1996年以前は上位15位に入ることはなかったが、 1997年に9位、 1999年以降は5〜9位に位置し、 年間40〜 109株検出されている(本号特集参照)。また、 本血清型による食中毒は、 本県以外では1997年に石川県(本月報Vol.18、 No.12、 310-311参照)、 2001年に滋賀県(本月報Vol.23、 No.3、 65-66参照)と名古屋市、 2002年に愛知県で発生している。当県における2000年4月からの調査ではS . Enteritidisと同程度に検出されている血清型であり、 汚染源の解明が望まれたが、 本事例の汚染源は特定されなかった。

岐阜県保健環境研究所 板垣道代 白木 豊 山田万希子 所 光男
岐阜県東濃地域保健所

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