The Topic of This Month Vol.24 No.8(No.282)

サルモネラ症 2003年6月現在

(Vol.24 p 179-180)

厚生労働省食中毒統計によると、 細菌性食中毒の患者総数は1999年27,741人、 2000年32,417人、 2001年15,753人、 2002年17,533人と推移している。この中でサルモネラによる患者数の占める割合は、 1999年43%、 2000年21%、 2001年31%、 2002年33%であり、 2000年にブドウ球菌が第1位となった(本月報Vol.22、 No.8参照)のを除き、 病因菌別では引き続き第1位を占めている(表1)。しかし、 患者数は2000年以降減少し、 年間7,000人を下回っている。サルモネラ食中毒1事件あたりの患者数は、 1999年14.4人、 2000年13.4人、 2001年13.7人、 2002年12.5人であり、 このうち患者数2人以上の事件に関しては1999年34.6人、 2000年22.3人、 2001年23.8人、 2002年32.0人であった。患者数500人以上の大規模事件が1999年に2件、 2002年に3件発生している(表2)。発生は8〜9月をピークに夏場に多い(図1)。

全国の地方衛生研究所・保健所から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたサルモネラ検出数は、 1999年まで年間5,000〜6,000で推移していたが(図2)、 2000年以後、 食中毒患者数(表1)とともに減少傾向を示している。血清型では(表3)、 1989年以来Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(S . Enteritidis)が第1位を占める状態が続いている。その割合は1999年46%、 2000年55%、 2001年53%、 2002年62%と推移しており、 第2位と比較し約10倍である(1999年を除く)。しかし、 その数は1996年3,830をピークに、 2002年は1,302と約3分の1に減少している(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/pvirus-j.html参照)。

1988年まで第1位を占めていたS . Typhimurium(本月報Vol.16、 No.1、 Vol.18、 No.3およびVol.21、 No.8参照)は1999年第5位、 2000年第2位、 2001年第3位、 2002年第4位と推移している。欧米では多剤耐性S . Typhimuriumが問題となっており、 例えば、 アンピシリン、 クロラムフェニコール、 ストレプトマイシン、 サルファ剤およびテトラサイクリンに耐性のファージ型definitive type 104 (DT104)に代表される耐性株の流行が報告されている(本月報Vol.21、 No.11およびVol.22、 No.9 & No.10参照)。国内でも多剤耐性S . Typhimurium DT104およびその関連型の株が1986年より分離されるようになってきているが、 現在のところS . Enteritidisのような急激な増加は見られていない(図3)。また、 2000年に初めて分離されたフルオロキノロン(いわゆるニューキノロン)耐性S . Typhimuriumに関しては、 その後も数例の報告があり、 今後の動向に注意を要する(本号3ページ4ページ参照)。

前回の特集で取り上げたS . Oranienburgは、 1999年に乾燥イカ加工品による広域集団発生(表2参照)のために急激な増加が見られたものの、 それ以後は減少しており、 2002年では血清型別上位15位以下となっている(表3)。

2000〜2002年にIDSCに報告された集団発生のうち、 患者数が10名以上の事件から検出されたサルモネラの血清型を表4に示す。事件数は2000年64件、 2001年36件、 2002年37件と全体の検出数同様、 減少傾向にあると思われる。起因菌の血清型の種類は5〜11種類と、 年によって変化が見られた。そのうちS . Enteritidisによるものは、 2000年77%、 2001年56%、 2002年84%と高い割合で推移しており、 国内ではS . Enteritidisが蔓延している状態が続いているが、 他の血清型による集団発生も報告されている(本月報Vol.21、 No.11Vol.22、 No.2No.5No.11Vol.23、 No.3Vol.24、 No.3および本号4ページ参照)。S . Enteritidisによる集団食中毒においては、原因食品に鶏卵が使用されている事件が多い。また二次汚染も重要な発生要因の一つと考えられている(本月報Vol.18、 No.9およびVol.23、 No.4参照)。卵によるサルモネラ食中毒の発生防止のため、 1998年10月に食品衛生法施行規則等が改正され、 鶏の殻付き卵については賞味期限などの表示の義務化および製造、 加工、 調理基準の設定が、 液卵については規格基準の設定が行われたほか、 卵選別包装施設の衛生管理要領および「家庭における卵の衛生的な取り扱いについて」の策定などの総合的対策が推進されており、 発生の減少傾向に寄与していると考えられる。

国立感染症研究所細菌第一部に送付されたS . Enteritidisのうち、 家族内感染を含めた集団発生由来株に関するファージ型別の結果(1999年以後)を表5に示す。ファージ型(PT)4が1999年35%、 2000年27%、 2001年26%、 2002年30%と第1位を占めており、 これに次いでPT1が第2位を占める状態が続いている(1999年26%、 2000年21%、 2001年19%、 2002年18%)。しかしながら、 全体としてはPT4およびPT1ともに減少傾向にあり、 代わってPT47が2002年には14%を占め、 また、既知の型に該当しないRDNCや他の型がしばしば検出されるようになってきている。

2002年はS . Enteritidis食中毒によって2人の死者(男女各1)が発生した。サルモネラは下痢等の腸内感染にとどまらず、敗血症等の全身感染に移行して患者を死亡させる場合もあるので、 早めに医師の診断を受け、 医師はその容体の変化に十分な注意を払う必要がある。上述のようにサルモネラによる食中毒の発生件数は減少傾向にあるが、 表2に示すような大規模事件が昨年も発生しており、 今後も油断することなく、 医療関係者・公衆衛生関係者は引き続きその発生状況および血清型の動向に注意を払うとともに、 特に夏場にかけて、 食品関係者および一般消費者に対し、 食材の保存、 取り扱い等に注意するなど、 食中毒予防に関する啓発が重要である。

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp



ホームへ戻る