1.これまでの取り組み
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、 2002年11月〜2003年8月7日までに世界中で8,422人の患者と916人の死亡者が確認されたSARSコロナウイルスによる感染症である。
厚生労働省では、 これまで次に掲げる対策を講じてきた。まず、 (1)WHOが発出した緊急情報を直ちに都道府県等に周知し、 ホームページ、 リーフレット等により国民への情報提供を行うとともに、 緊急を要する案件については直接WHO等からの情報収集を行った。また(2)SARS伝播確認地域への渡航に関する助言を、 外務省と連携を図りながら行うとともに、 (3)検疫についても、 伝播確認地域からの航空機では機内で問診票を配布する、 また発熱患者の発見のために温度計測機能付サーモグラフィーを設置するなど検疫を強化した。
(4)国内発生に備えた体制の整備としては、 1)患者発生動向調査(サーベイランス)体制を整備するとともに、 2)SARSを新感染症として取扱うこととし、 その後、 指定感染症として政令指定した(2003年7月14日)。また3)国立国際医療センターを特定感染症指定医療機関に指定、 第二種感染症医療機関に対しては、 平成15年度における保健衛生施設等設備整備費等の補助対象として新規に感染症病室簡易陰圧装置等を追加するなど、 医療提供体制の整備を図った。また、 4)医療機関における患者の管理基準および院内感染対策基準を作成・周知するなど危機管理の徹底を図った。
さらに、 (5)WHOが創設した国際研究ネットワークに参加する等、 国際的な協力等の推進に努めるとともに、 (6)科学技術振興調整費や厚生労働科学研究費による研究の推進を図った。また(7)中国を原産地・船積地とするハクビシン等の輸入規制を実施するなどの措置を行った。
2.今後の課題
7月5日、 WHOが最後に残った集団発生地域でSARS伝播が絶たれたことを発表するに至ったが、 同じくこの冬のSARSの再流行に向けて備えるよう警告を発している。
このため、 厚生労働省においては、 国および自治体などの情報の伝達・共有、 患者搬送、 患者および接触者の疫学調査、 院内感染対策、 地域内伝播対応などをテーマとした「訓練」を行うよう各都道府県に指示するとともに、 国においても東京都および千葉県と合同で訓練を実施した。また現在、 厚生科学研究などにおいて、 検査法の開発・普及などを行うとともに、 外来診療施設への財政支援を行っているところである。
また、 WHOは、 医療従事者に対してインフルエンザワクチン接種を推奨するなど、 インフルエンザ対策を併せて推進するよう求めており、 総合的な対策を計画している。
SARSは、 航空機等の移動手段が発達した現代社会において、 人の移動を介して瞬く間に世界各地に感染が拡がったことから、 検疫体制と感染症発生時の迅速かつ機動的な対応の重要性を再認識させられた。
SARS等への対応を、 より迅速に、 かつ的確に講ずるため、 現行法では対応が不十分と考えられた以下の点について改正を行うことを検討している。
まず、 感染症法については以下の1〜3の内容について見直しを進めている。
1.緊急時における感染症対策の強化のために、 緊急の必要があると認めるときは、 国自ら感染症の発生状況等の調査を行うことができるようすること、 感染症の予防計画等の策定に関する事項に緊急時における計画策定を追加すること、 緊急の必要があると認めるときは国は都道府県知事等が行うとされている事務に関し必要な指示をすることができるようすること。
2.動物由来感染症対策の強化のために、 動物の輸入に係る届出制度の創設、 感染症を感染させる動物等の調査、 獣医師等の責務規定の創設等。
3.感染症法の対象疾病の見直しおよび疾病分類の見直し等として、 1類感染症に「重症急性呼吸器症候群」および「痘そう」(天然痘)を追加すること、 また媒介動物の輸入規制、 消毒、 ねずみ等の駆除等の措置を講ずることができるようにするため、 4類感染症の類型を見直すこと、 また都道府県知事等が消毒およびねずみ等の駆除の措置を自ら行うことができること、 および都道府県等が他の都道府県等に対し検査研究機関の職員の派遣等の協力を求めることができるようすること、 などが見直している事項である。
また、 検疫法については、 1.検疫感染症に感染したおそれのある者に対し、 入国後の健康状態の確認等ができることとすること、 2.外国に新感染症が発生した場合、 検疫所長が当該新感染症にかかっていると疑われる者に対する診察を行うことを行わせることができること、 3.病原体の検査が必要な感染症を検疫感染症に機動的に追加することができるように検疫感染症の規定方法を見直すこと、 4.新4類感染症類型の見直しに伴い、 新4類感染症の患者等を発見した場合の診察・消毒等の応急措置等の規定を整備すること、 などの見直しを検討している。
最後にこの場をお借りして、 今回のSARS対策にご協力いただいた方々への感謝の意をもって、 本文を終了させていただきます。
厚生労働省健康局結核感染症課
国際感染症情報専門官 中里栄介