重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する国内一般市民からの問い合わせ

(Vol.24 p 257-258)

バイオメディカルサイエンス研究会(BMSA)は厚生労働省の委託により、 SARSに対する相談窓口を開設し、 一般市民からの電話相談に応じた。委託期間は2003年4月7日〜4月25日までであったが、 引き続き多数の問い合わせが寄せられたため、 SARSの終息宣言まで期間を延長して対応した。1日の開設時間は午前9時〜午後5時までであった。回答はBMSA会員6名によりローテーションを組んで行った。

相談者の年齢、 職業、 居住地域の聞き取りについては相手側の応じる範囲内で行った。

1.相談件数、 相談者の種類、 および質問内容

総相談件数は1,272件で、 このうち性別、 年齢、 職業、 居住地域などが記録されたのはそれぞれ660(52%)、 593(47%)、 359(28%)、 1,084(85%)件であった。

相談内容は性別、 職業別により特徴が認められた。内容のほとんどはメディアの影響を受けており、 大きな報道の後は、 その件に対する質問件数が増加した。 年齢別では30代(30%)が最多で、 40代(23%)、 20代(17%)、 50代(17%)、 60代(10%)、 70代(3%)の順であった。相談内容については年代による大きな違いはないが、 各年代ともSARSに高い関心と不安を持っていた。

居住地域は全国(大分県、 高知県を除く)にわたっており、 地域的に大きな違いや特徴はなかったが、 患者発生の可能性が憂慮された関西では、 それにともなって相談が増える傾向にあった。また、 少数ながら海外在住の日本人から国際電話による相談があった。

以下に性別および職業別に主な質問内容をまとめた。

 A)性別による主な質問内容
  *男 性
   ・SARSに罹患した場合の治療、 入院費は国で負担するか?
   ・SARS流行国へ出張して帰国後、 家族や同僚に接してよいか。またはホテルで10日間を過ごすべきか?
   ・海外出張後どこでSARSの検査がうけられるか。健康証明書はもらえるか?
   ・マスクの効果はあるか。その入手先は?
   ・治療薬、 ワクチンはいつごろできるか?
   ・SARSは生物テロではないか?

  *女 性
   ・夫がSARS流行国から帰国したが家族の予防法と注意することはなにか?
   ・中国(香港など)の駐在員の夫を現地に残し家族だけ帰国した。子供をすぐに学校に登校させて良いか?
   ・海外から帰国した人と会った(会う予定)がSARSに感染していないか心配。
   ・生後6カ月の乳児を連れてイタリアに行きたいが大丈夫か?
   ・流行国以外の海外への観光旅行は大丈夫か?(ヨーロッパなど)
   ・海外旅行で空港、 飛行機内でのマスクの着用は必要か?
   ・SARSの症状が出る前の潜伏期間でも感染するか?
   ・官舎に住んでいる。同じ棟にフィリピン帰りの人が住むことになっているが、 どのような感染予防対策が必要か管理当番として心配だ。

 B)職業別による主な質問内容
  *企業、 会社関係
   ・職員の海外出張と帰国後の予防対策はどうしたらよいか?
   ・輸入物品の取り扱いの注意事項について。
   ・駐在員の駐在または帰国について。
   ・修学旅行に関西へ中学生を案内するので注意とウイルスの生存期間について教えて欲しい。
   ・飼料会社だが中国から輸入した原料の安全性のためにウイルスの生存状態について知りたい。

  *デパート、 スーパー、 小売店(輸入品)関係
   ・不特定多数の客が集まるのでSARS対策をどのようにしたら良いか?
   ・輸入野菜、 お茶、 冷凍食品の安全性について。
   ・流行国で製造した衣類、 おもちゃ、 雑貨からSARSの感染の心配は?
   ・客への安全性の説明はどうすれば良いか?WHOの見解は出ているか?

  *学校とPTA関係
   ・大学の教師が中国人で急用で母国に帰り、 再来日するが学生への予防策は?
   ・中国などからの帰国児の入学式への参加または編入をさせてよいか?他児童への感染予防は?
   ・潜伏期間を自宅待機するように言われたが従わねばならないか?
   ・教師なので中国帰りの息子と接触したら自分は学校を休んで感染を拡げないようにしたいが....。

  *医療関係(医師、 薬剤師、 保健師)
   ・SARS患者が来院した時の対策を知りたい。
   ・流行国から帰国後に肺炎で入院している患者がいるが、 病院の名前が出ると困る。プライバシーの保護をしてもらえるか?
   ・消毒剤の情報を知りたい。
   ・手洗いに有効な石鹸や、床・壁のふき取りにはなにが良いか、 また患者が来たらどうしたらよいか?
   ・タイ、 シンガポールへ仕事で行く。当該国の患者数と状況を知りたい。
   ・新型コロナウイルスの検査法に最適な採取材料、 採取時期による差は。
   ・中国帰りで肺炎で入院している患者がいる、 どう対処したらよいか。

  *船員、 船舶労働者関係
   ・SARS流行地域から来る荷物や船の消毒方法は?
   ・船の仕事を流行国の人とするときはマスクをしたほうが良いか?
   ・客船にSARS検査キットを用意してSARSが疑わしい時に使用したい。

  *マスコミ関係
   ・SARSのスーパースプレッダーについて教えてほしい。
   ・子供向け新聞に掲載するためにSARSについて分かりやすい説明は?
   ・SARS予防法について聞きたい。専門家を紹介して欲しい。
   ・BMSAはどのような組織か?電話番号を掲載して良いか?

2.考察と今後への提言

市民相談対応の最大の目的はSARSパニックに陥らせないことであった。我々はWHOからのGlobal Alertが発せられた時点から国立感染症研究所・感染症情報センターホームページの「緊急情報」を注視していたため相談者に対応することができた。その結果、 市民に対してきめ細かく解明をすることができ、 市民のSARSに対する恐怖心を軽減させ、 精神的ケアの役割を充分に果すことができたと考える。

さらにWHO、 CDC、 厚生労働省、 感染研のUpdateな情報を伝えることもでき、 風評などによる市民の誤解や混乱を軽減させることができたと考えている。

7月5日にWHOはSARS終息宣言を行ったが、 まだSARSフリーになった訳ではなく、 危険は残っていると警告している。

WHO事務総長Dr. G.H. Brundtland(当時)は今回は集団発生の封じ込めに成功したと述べ、 将来のために疫学者や公衆衛生専門家の育成を強く呼びかけている。

NPO 法人バイオメディカルサイエンス研究会(BMSA)
山寺静子 木ノ本雅通 小船富美夫 中山幹男 ルナール純子 小松俊彦

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る