台湾では、2003年3月中旬よりSARSが流行した。医療センター、大学附属病院で、"suspected case"または"reportable case"の定義に合致したすべての患者から検体が収集された。"Suspected case"の定義にあてはまり、かつX線検査により肺炎と確認された患者、あるいは息切れの症状を示していた患者から、上気道由来検体(咽頭ぬぐい液、唾液、喀痰)、血液、便、尿が採取され、低温でVirology Laboratory (Center for Disease Control, Department of Health, Taiwan, R.O.C)へと送付された。ウイルス検査として、プライマーを用いたRT-PCRとnest PCRを行い、nest PCR産物にはシークエンスを行った。
RT-PCRとnest PCR検査では、電気泳動により様々な検体から陽性が確認されたが、コロナウイルスのシークエンスを同定するのに最も適した検体は咽頭ぬぐい液と喀痰であった。発症初期段階の血清と、数検体の便からもウイルスは検出されたが、それ以外の検体からウイルスは検出されなかった。ウイルスシークエンスCH-TW (台湾における最初のSARS疑い患者の咽頭由来、Accession number AT268049)と既知のコロナウイルスとのヌクレオチド、アミノ酸の相同性を比較した。CH-TWは他のコロナウイルスとヌクレオチドで54〜62%の相同性があり、最も相同性が高かったものはマウスから分離されたMHV(mouse hepatitis virus)の62.9%、最も低いものはイヌから分離されたCcoV(canine coronavirus)であった。アミノ酸では55〜73%の相同性があり、ブタから分離されたコロナウイルスPHEV(porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus)が73.1%と最も高く、次いでヒトから分離されたウイルスHcoV-OC43(human coronavirus)、ウシから分離されたウイルスBcoV(bovine coronavirus)がそれぞれ72.3%であった。
CH-TWと既知のコロナウイルスについて系統樹による解析を行ったところ、3つのクラスター(グループI、II、III)が形成されたが、CH-TWは単独で別の枝に分かれ、いずれのクラスターにも属さなかった。これより、CH-TWは変異したコロナウイルス株で、ヒト、ブタ、ウシ、イヌから分離されたコロナウイルスとは有意に異なることが推測された。
(Epidemiology Bulletin, 19, No.6, 127-141, 2003)