メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の集団発生は医療機関で起こるのが一般的であったが、 市中での皮膚感染症の原因菌としても重要性を増しつつある。このレポートは、 スポーツ競技の参加者の間で発生したいくつかのMRSA皮膚・軟部組織感染の集団発生事例のまとめである。MRSA感染がスポーツ競技を介して起こりうること、 医療従事者はそのような可能性も念頭におくこと、 選手・コーチ・管理者などに対して感染予防策を啓発することの重要性、 などが示唆される。
フェンシング:2003年2月に、 コロラド州のコロラドフェンシングクラブのメンバーとその家族の合計5名がMRSA感染症の患者として報告されたのをきっかけとして、 クラブメンバー全員に質問票を介して、 感染の有無と感染を促すような危険因子について調査が行われた。調査の結果、 5名以外に新たな患者はみられなかった。患者年齢の中央値は31歳(11〜51歳)で、 3名(60%)が女性であった。1名の患者が筋炎を起こし、 11日間の入院を要した。他の4名は全身性に1〜6個の膿瘍形成があり、 うち3名が抗菌薬の投与を受けるために入院した。2名の患者から得られた菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施したところ、 パターンが一致していた。感染に関連すると思われる危険因子の中では、 使用する防具、 マスク、 器具に関しての共用はなかったものの、 防具の下につけるセンサーのワイヤーが共用されており、 しかも定期的に洗浄されてはいなかった。さらに、 施設内に使用可能なシャワー設備がなかった。今回の事例を受けて、 クラブのメンバー、 コーチ、 管理者に対して衛生管理に関する指導が行われた。
フットボール、 レスリング:2000年9〜10月、 ペンシルベニア大学フットボールチームのメンバー10名がMRSAによる皮膚・軟部組織の感染を起こし、 そのうち7名が入院した。分離されたすべての菌株がPFGEにおいて同一のパターンを示した。感染の伝播に関して、 擦傷などの皮膚外傷と、 洗濯していないバスタオルの共用など、 いくつかの危険因子が考えられた。
2002年9月、 ロサンゼルスのある大学のフットボールチームにおいて、 MRSAによる皮膚感染症の患者2名が発生した。1名は重症でデブリドマンと皮膚移植が必要とされた。分離された菌はPFGEで一致したパターンを呈していた。たび重なる外傷と、 傷が適切に覆われていなかったこと、 さらに鎮痛剤や潤滑剤を共用していたことなどが危険因子として報告された。
2003年1月、 インディアナ州のある高校のレスリングチームで2名のMRSA皮膚感染症の患者が確認された。入院が必要な者はなかった。PFGEも行われなかった。この2名は階級が異なり、 一緒に練習することもなかったため、 直接的な接触感染というより、 何らかの物を共用したことにより感染した可能性が考えられた。
(CDC、 MMWR、 52、 No.33、 793-795、 2003)