福祉施設で発生した成人のA群ロタウイルス集団感染事例−岩手県

(Vol.24 p 263-264)

A群ロタウイルス(A-HRV)は小児の急性胃腸炎の主要な病原であるが、 2003年5月に岩手県内の福祉施設において成人のA-HRVによる胃腸炎の集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

発生施設は成人の知的障害者が入所する全寮制の福祉施設であり、 入所者数は83名(年齢18〜72歳)、 職員数は36名である。5月19日に当該施設から管轄保健所に下痢や嘔吐の症状のある入所者がある旨の通報があり、 保健所では当初、 食中毒の疑いもあるとして、 調査を行った。患者数は25名で、 その内訳は入所者24名、 職員1名であった。発症日別患者数は5月15日5名、 16日8名、 17日3名、 18日5名、 19日4名であった。主な症状は下痢、 発熱、 腹痛で、 一部の患者には嘔吐、 頭痛、 倦怠感がみられた。症状は全般に軽く、 医療機関で治療を受けたものもあったが、 入院加療を受けたものはなかった。

糞便検査の結果、 細菌検査では病原と考えられる細菌は検出されなかった。ウイルス検査は患者8名について実施した。電顕法で5名からロタウイルス粒子が検出され、 さらに、 A-HRV検出用キット(イムノクロマト法、 栄研化学)を用いて検査を行ったところ、 6名が陽性であった。以上の検査結果から、 今回の事例はA-HRVによる集団感染と判断された。感染経路は、 患者の発生状況から食品媒介ではなく、 人→人感染ではないかと考えられた。

最近、 一般成人においても、 A-HRVが臨床的に重要であるとの報告があり、 今後は、 成人の胃腸炎起因ウイルスとしてノーウォーク様ウイルス以外に、 A-HRVについても注目していきたい。

岩手県環境保健研究センター
佐藤直人 高橋朱実 藤井伸一郎 佐藤 卓 齋藤幸一 田澤光正

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る