2003年に上田市内で配食(昼食)弁当が原因の腸管出血性大腸菌O157(O157:H7 VT1&2 産生、 以下EHEC O157)集団食中毒事例が発生したので概要を報告する。
5月25日医療機関から上田保健所に上田市内の女性(93歳)がEHEC O157感染症で死亡したとの届け出があった。また、 同保健所には前日にも上田市内の女性(77歳)が同じくEHEC O157感染症で届け出されていた。これら2事例の感染経路に関する調査の結果、 いずれも老人を対象とした配食サービス受給者であることが判明した。そこで、 上田保健所では配食サービス受給者の喫食・発症状況、 検便、 同サービスの委託先である弁当製造施設の調査を実施した。
弁当の製造工程は、 午前1時頃から仕込みを開始し、 午前5時30分頃から盛り付け、 午前7時過ぎにはほぼ完成していた。製造後の弁当は、 午前9時までに配食サービス事務所へ当該施設従事者によって配達され、 事務所において6コースに仕分けの後、 同サービス職員が受給者に午前10時〜正午にかけて配達していた。弁当を配達する自動車には、 エアコン以外に冷蔵設備等は設置されていなかった。
配食サービスの受給者・関係者の便289検体、 弁当製造施設の従事者便7検体、 施設内ふきとり24検体、 参考食品6検体(検食の保存なし)、 排水1検体の検査を行った。その結果、 受給者のうちさらに3名からEHEC O157が検出され、 計5名の感染者(患者4名、 無症状病原体保有者1名)が確認された。一方、 従事者便、 ふきとり検体、 参考食品等からEHEC O157は検出できなかった。
感染者5名から分離された菌株はいずれも、 EHEC O157:H7 VT1&2産生株であった。また、 制限酵素Xba I処理によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)で遺伝子型別を実施した結果、 すべて同一パターンを示した。
患者4名は、 5月19日〜23日の間に発症し、 腹痛および下痢の臨床症状を呈しており、 3名は血便が認められた。そのうちの1名は、 発病後3日目に脳症およびHUS(溶血性尿毒症症候群)を併発し、 5月25日死亡した。
行動調査結果では5名に共通点はなく、 喫食調査結果から感染者5名はいずれも配食弁当を喫食しており、 共通食はこの弁当のみであった。また、 5名すべてが配食弁当を喫食したのは5月13日および16日であった。さらに、 腸管出血性大腸菌の一般的な潜伏期間(3〜8日)から、 5月16日の弁当が原因食品として強く示唆された。なお、 この日の弁当メニューはさんま塩焼き、 きす天、 野菜サラダ、 豚肉と白菜の煮込み、 ひじき炒め、 きゃらぶき、 大根の一夜漬け、 ごはんであったが、 検食が残されておらず、 原因食品は特定できなかった。また、 受給者の多くが弁当を一度に食べきれず、 夕食や翌日の朝食として喫食していた。
本事例は、 EHEC O157の散発事例を発端としていたにもかかわらず、 1週間という短期間で食中毒と断定できた。このことは初発例発生時に関係機関の連携がスムーズに行われた結果であるとともに、 PFGEによる遺伝子型別結果が疫学調査に非常に役立った事例であった。
一方、 今回は営業者の責務のみならず、 配食サービスに対する食品衛生上の問題点を示唆する事例でもあった。今後は、 配食サービス方法(弁当配達、 受給者の食事の取り方)等について改善の必要性があろう。
長野県衛生公害研究所 笠原ひとみ 高野美香子 村松紘一
長野県上田保健所 白石寛子 廣井英子