インフルエンザ非流行期の7月に1株のAH3型インフルエンザウイルスが散発的に分離されたので報告する。
症例は年齢26歳の男性で、 2003年(平成15年)7月14日にインフルエンザ症状を発症し、 インフルエンザ迅速診断試験にて陽性となったことから、 7月17日採取の咽頭ぬぐい液が当所に搬入された。定法に従い検体処理しMDCK細胞に接種したところ、 細胞変性効果が観察された。
国立感染症研究所より2002/2003シーズン用に分与された検査キットで0.75%ヒトO型赤血球を用いてHI試験を行ったところ、 抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)血清(ホモ価 160)、抗A/Moscow/13/98(H1N1)血清(ホモ価 320)、抗B/Shandong(山東)/7/97血清(ホモ価 160)および抗B/Hiroshima(広島)/23/2001血清(ホモ価 160)ではいずれもHI価<10であったが、 抗A/Panama/2007/99(H3N2)血清(ホモ価 320)に対してはHI価10であり、 抗原性はA/Panama/2007/99株に類似せず、AH3型の抗原変異株と考えられた。さらに、 HA遺伝子HA1領域の遺伝子解析を行い、 アミノ酸配列を推定したところ、 A/Panama/2007/99株に類似していた2002/03シーズンの愛知県下の分離ウイルスと比較し、 6カ所のアミノ酸が変異していた。このうち、 抗原決定領域と考えられている145、 159番目のアミノ酸が変異し、 それが抗原変異に寄与しているものと考えられた。
発症前後の2003年第28〜30週(7月7日〜27日)には愛知県下ではインフルエンザ患者発生の報告は当該症例以外なく、 当ウイルスによる地域流行等は観察されなかった。また感染経路については、 患者男性は発症直前の7月13日〜14日にかけてカナダのバンクーバーとエドモントンを訪れていた事から、 渡航先のカナダで罹患した可能性が考えられた。
流行予測の観点から、非流行期におけるインフルエンザウイルスの動向の把握は重要である。本事例のように抗原変異株が分離される場合もあることから、 非流行期においてもインフルエンザ監視活動を維持することが必要と考える。
愛知県衛生研究所
佐藤克彦 森下高行 榮賢司