麻疹ウイルス遺伝子型H1の流行−岩手県
(Vol.24 p 262-263)

2003年4月〜6月にかけて県南部を中心として麻疹が流行し、中学校および高校では集団感染も認められた。集団事例および散発事例から計24株の麻疹ウイルス(MV)が分離され、この分離株がすべて遺伝子型H1であった。

中学校および高校における集団感染発生状況の概要:本年1月以降、県南部の感染症発生動向調査定点から、麻疹が報告され始め、5月上旬には沿岸南部の大船渡保健所管内で、定点あたりの患者数が1.33人となり、その後の動向を注目していた。5月下旬、内陸南部の水沢保健所管内の医療機関および学校から、麻疹の集団感染が認められるとの情報提供があった。同保健所で管内における発生状況を調査した結果、A中学校とB高校において集団感染が確認された。患者の発生は両校ともに5月中旬に始まり、6月の上旬まで続いた。両校の患者数は表1のとおりで、罹患率はともに10%であった。A中学校における麻疹ワクチン接種歴については現在調査中である。

ウイルス分離とMVの分子疫学的解析:A中学校の患者5名について咽頭ぬぐい液を検体とし、ウイルス分離(B95a細胞使用)とRT-PCRを行った。その結果、ウイルス分離では3検体が陽性、RT-PCRでは5検体すべてが陽性だった。ダイレクトシークエンス法によりN遺伝子の3´末領域(456塩基)の塩基配列を決定したところ、5株すべてが同一であった。さらに、385塩基(position;1,302-1,686)についてNJ法で分子系統樹解析を行ったところ、遺伝子型H1に分類された。これらの株と、県内各地の患者から分離された19株を比較したところ、塩基配列では最多で3個の違いはあったものの、アミノ酸配列はすべて同一であった。

N遺伝子の3´末領域(456塩基)を用いたBLAST2searchにより、国内で分離されている遺伝子型H1のMVと本県の分離株を比較したところ、24株の中にはMvi/Osaka C.JPN/32.02 株と相同性100%の株が6株、Mvs/Fuji.JPN/21.02(S)株と相同性100%の株が1株認められた。

考 察:今回の流行において、中学校と高校で麻疹の集団感染が認められ、この年代に感受性者が多数いることが確認された。

韓国や中国の由来株であるH1型が、2000年に東京で検出されて以来、国内各地で分離されている。今回の流行で患者から分離されたMVはすべてH1型であり、県内にもこの型が侵淫してきたことが確認された。

また、今回の中学校および高校における集団発生の探知は、感染症発生動向調査の患者報告によるものではなく、医療機関からの情報提供によるものであった。麻疹のように感染力が強く、局地的に流行する感染症の場合、定点観測では流行を見逃し、対応が遅れる可能性もあり、患者発生状況を的確に把握するためには、サーベイランス方法の検討が必要と考えられた。

岩手県環境保健研究センター
高橋朱実 佐藤直人 藤井伸一郎 佐藤 卓 齋藤幸一 田澤光正
岩手県水沢保健所 坂上陽子

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