アデノウイルス7型(Ad7)はB亜属に分類されるアデノウイルスで、 同じ亜属のAd3と同様に結膜、 咽頭、 肺、 腸管等多くの臓器で増殖するため、 多様な臨床症状を引き起こす。中でも心肺に基礎疾患を持つ小児では致命的肺炎を起こす場合があり、 注意を要するウイルスである。病原微生物検出情報におけるAd7の分離報告株数は、 1995年以後急増し、 1996〜1998年は年間 200〜 300に達していたが、 1999年以降は年間10〜70程度に減少した。岡山県でも1996年、 1998〜1999年には2〜5株のAd7が分離されていたが、 2000年以降は年間0〜1株の分離にとどまっていた。2003年、 岡山県では全国的な咽頭結膜熱患者の増加を受けてアデノウイルスの流行状況に注意を払っていたところ、 7月に高校の運動部寮におけるAd7感染症の集団発生を経験したので、 その概要を報告する。
2003年7月5日、 県南部のA市内の1医療機関から所管保健所に対し、 「B高校野球部の寮生4名、 コーチ1名が発熱・嘔吐・下痢等の症状で入院した。」との通報があり、 調査が開始された。その結果、 寮生等41名(寮生38名、 監督・コーチ3名)のうち12名(寮生11名、 コーチ1名)が不調を訴えて医療機関を受診し、 5名が入院したことが判明した。病原検索は、 7月7日(第4〜9病日)に採取された入院有症者5名の咽頭ぬぐい液について、 培養細胞(FL、 RD-18S、 Vero)によるウイルス分離を実施した。その結果、 寮生4名(第4、 6、 7および第9病日)からFL細胞のみでAd7が分離された。有症者12名の情報を表に示す。主な症状は、 発熱(39℃以上:5名、 37℃台:5名)、 頭痛(6名)、 咽頭痛(4名)、 下痢(3名)、 軟便(1名)であった。入院有症者では検体採取時も発熱が続いており遷延傾向が認められた。症状について、 本月報で報告された過去のAd7感染症例1)〜3)と比較すると、 「遷延する高熱」と「咽頭痛」が共通しており、 「胃腸炎症状」の頻度が比較的高い点も類似していた。以上より本事例はAd7による集団感染と推定された。
本事例の発生地近隣のC市にある感染症発生動向調査検査定点で、 6月17日に採取された患者咽頭ぬぐい液1検体からAd7が分離されており、 同地域にAd7が侵入していたことが確認されている。また、 やや古いデータであるが、 平成8年(1996年)度に岡山県内で実施したAd7の血清疫学調査4)によれば、 40歳以下では抗Ad7中和抗体保有率は2.2〜6.7%ときわめて低く、 その後も県内でAd7の広範な流行は見られなかったことから、 青少年層の抗体保有率は低いままであると推定される。したがって、 本事例は、 地域から寮内に持ち込まれたAd7が抗体を保有していない寮生の間で集団感染を引き起こした事例と考えられた。
Ad7感染症は、 日本では小児の感染症として注目されているが、 米国では軍隊の新兵における集団感染事例がしばしば発生している。一般にアデノウイルスは糞便中に長期にわたり排泄されることが知られており、 Ad7が抗体保有率の低い青少年の集団に侵入すると、 感染が大規模化・長期化するおそれもあるので、 十分な注意が必要である。
おわりに、 本稿をまとめるにあたりご協力いただいた保健所関係各位に深謝します。
参考文献
1)渡辺由香里、他:IASR、 Vol.17、 101-102、 1996
2)沢田春美、他:IASR、 Vol.18、 82、 1997
3)横田陽子、他:IASR、 Vol.19、 78-79、 1998
4)濱野雅子、他:岡山県環境保健センター年報、 Vol.22、 16-19、 1998
岡山県環境保健センター
濱野雅子 葛谷光隆 藤井理津志 西島倫子 小倉 肇