感染症流行予測調査事業は、 厚生労働省が実施主体となり、 都道府県、 都道府県衛生研究所、 国立感染症研究所が協力し、 定期予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、 本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、 速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、 近年3年間の年次比較について述べる。
本年度のインフルエンザHI抗体測定には、 次の4抗原が使用された。このうち1、 2、 3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。ワクチン株として使用されている1〜3のうち1、 2については今シーズンで4年連続、 3については2年連続で使用されている。
1.A/New Caledonia/20/99(H1N1)
2.A/Panama/2007/99(H3N2)
3.B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
4.B/Shanghai(上海)/44/2003(山形系統株)
2003/04シーズンワクチン株選定の経緯については、 本月報Vol.24、 215-217を参照いただきたい。
血清検体:採血時期は原則2003年7〜9月であるが、 当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、 この時期以前でも可としているが、 少なくとも5月以降であることと規定している。
2003(平成15)年10月28日現在、 北海道、 秋田、 山形、 福島、 神奈川、 新潟、 富山、 山梨、 長野、 静岡、 山口、 愛媛の12道県から合計3,019検体分の調査成績が寄せられた。年齢群別の検査数は、 0〜4歳 304例、 5〜9歳 296例、 10〜14歳 355例、 15〜19歳 336例、 20〜29歳 374例、 30〜39歳 383例、 40〜49歳 326例、 50〜59歳 320例、 60歳以上 325例であった。
A/New Caledonia/20/99(H1N1)に対する抗体保有率:有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、 5〜19歳では約50%であったが、 0〜4歳群、 20代群、 60歳以上群では約20%、 30代、 40代群では約15%、 50代群では約5%と低かった(図1上段)。
A/Panama/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率:10〜14歳群の抗体保有率は約75%で最も高く、 その後50代まで年代とともに抗体保有率は減少していた。5〜19歳群の抗体保有率は約60〜80%であったが、 0〜4歳群は約25%、 20〜30代群は約30〜35%、 40〜50代群は約20〜25%と低い。一方、 60歳以上群では約45%の人が抗体を保有していた(図1下段)。
B/Shandong/7/97(Victoria系統株)に対する抗体保有率:最も抗体保有率が高かった20代群でも約20%であり、 次いで60歳以上群、 30代群の約15%、 10代群で約10%、 5〜9歳群で約5%、 0〜4歳群および40〜50代群では5%未満であった(図2上段)。
B/Shanghai/44/2003(山形系統株)に対する抗体保有率:本株は、 Victoria系統株である今年のワクチン株B/Shandong/7/97と異なり、 山形系統の変異株である。本株は前シーズンの主流行株とは遺伝的に異なる系統に入る変異株であることから、 調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率は5〜19歳群ではワクチン株であるB/Shandong/7/97より高いものの、 その他の年齢層ではすべてB/Shandong/7/97より低かった。0〜4歳群、 40歳以上群ではすべて5%未満であった(図2下段)。
コメント:近年3年間の1:40以上の抗体保有率を比較すると、 ワクチン株に関しては60歳以上群の抗体保有率が今年度最も高かった。2001年11月にインフルエンザワクチンが定期接種(2類)となり、 65歳以上のワクチン接種率が増加したためと考えられる。特にA/Panama/2007/99(H3N2)は近年の流行も重なり、 2001年度32%、 2002年度36%、 2003年度(現時点)45%と、 抗体保有率は徐々に上昇している。B型の抗体保有率は例年同様、 A型に比して低値であった。
A/H1N1(ソ連)型は、 過去2年と比較すると全年齢群において最も高いかあるいは同等の保有率を示し、 5〜19歳群が最も高くほぼ50%の抗体保有率であった。しかし、 成人層、 高齢者層の保有率は十分とは言えないことなどから、 今シーズンも引き続き注意が必要である(図3)。
A/H3N2(香港)型は、 過去2年と比較すると0〜9歳群、 50代群を除いて最も高い抗体保有率であった。ただし、 0〜4歳群、 成人層については十分とは言えないことなどから、 今シーズンも引き続き注意が必要である(図3)。昨シーズンから分離され始めている変異株の動向に注意が必要である。
B型は、 ワクチン株であるB/Shandong/7/97については15〜19歳群以外過去3年間で最も高い抗体保有率を示したが、 全年齢層で十分とは言えず、 ワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。一方、 ワクチン株とは異なった系統の山形系統株に関しては、 抗体保有率のピークの年齢層が異なるものの、 Victoria系統株と同様に抗体保有率は全年齢層で十分とは言えず、 B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。
本速報は感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/yosoku99/index.htmlで随時更新予定である。
国立感染症研究所
感染症情報センター第3室(旧予防接種室)
ウイルス第3部第1室(旧第1部・呼吸器系ウイルス室)