今夏、沖縄県衛生環境研究所にはこれまでのところ西表島でのレプトスピラ症の報告はないとのことだが、国立感染症研究所において2例の西表島帰りの観光客(東京都)が抗体価測定によりレプトスピラ症と確定診断された。感染血清型は、それぞれhebdomadisとgrippotyphosaと推定された。患者2例はともに西表島で8月の上旬からキャンプを行っており、川での水遊びや釣りが感染原因と考えられた。両患者とも主訴は発熱、頭痛で、抗菌薬の投与により速やかに症状は改善した。
本号p.18の沖縄県の報告の通り、1999年夏季に、西表島でカヌーやカヤックのインストラクターなど、河川でのレジャーに携わる人々のレプトスピラ症の集団発生が報告された。しかしながら、この時には観光客でのレプトスピラ症患者の報告はなかった。
黄疸、出血、腎不全を伴う重症のワイル病とは異なり、軽症のレプトスピラ症の場合は、発熱や頭痛、筋痛などの非特異的な臨床症状しかなく、またレプトスピラは多くの抗菌薬に感受性のため、投与後速やかに治癒する場合が多い。そのため、沖縄県を除いては、軽症のレプトスピラ症に対する認識が低く、これが患者報告につながらないものと考えられた。
今回は、患者に西表島への旅行歴があったことから、担当医師がレプトスピラ症を疑い、確定診断を行うことができた。このように、西表島ではレプトスピラ症は決して稀な疾患ではなく、西表島帰りの熱発患者の鑑別には、常にレプトスピラ症を考慮するべきである。
国立感染症研究所・細菌第一部 小泉信夫 渡辺治雄