動物由来感染症に対する対策の強化

(Vol.25 p 4-4)

これまでに発生した新興感染症の多くは動物由来感染症であり、代表的なエボラ出血熱等の他にも、鳥インフルエンザ(A/H5N1、A/H7N7、A/H9N2)、ニパウイルス感染症、サル痘、ウエストナイル熱などの発生が報告されている。また、新たに出現した重症急性呼吸器症候群(SARS)について、原因ウイルスの起源は解明されていないが野生動物に由来することも示唆されることから、中国において原因動物の調査が進められている。

感染症法の制定時には、エボラ出血熱・マールブルグ病対策のため、サルを輸入禁止動物に指定し、特定地域・施設のサルに限って検疫を実施して輸入を許可する制度が導入された。しかしその後、サル以外の多種・多数の野生動物等が年間100万頭以上、世界各地から航空機によって輸入され、動物の種類や安全性の確認が無いまま、複雑な流通ルートを経てペット用に販売される実態が明らかとなり、従来の制度に加えて一層の輸入動物の安全確保を図る必要性が生じていた。図らずも、野兎病に感染した恐れのあるプレーリードッグが米国から輸入された事件においては、トレーサビリティーの欠如等からいったん国内に流通してしまうと事後対応が極めて困難等の、輸入動物の安全対策上の課題が明らかとなり、その対応が急務となった。

また、従来の制度では、動物由来感染症対策を実施できる対象疾患が1〜3類感染症に限定されており、輸入動物対策のみならず国内動物対策においても、例えばオウム病の集団発生があった動物展示施設での疫学調査等や、蚊が媒介する感染症(ウエストナイル熱等すべて旧4類感染症として指定)の対策において根拠となる法規定の明示が無かったことから、蚊の駆除等の対物措置はとれず、その明確化を図る必要性が生じていた。

以上のような理由から、今回の改正では以下のような新制度の創設と新たな規定の追加等がなされ、動物由来感染症対策の充実強化が図られることとなった。

1.動物の輸入に関する届け出制度の創設

今回、新たに創設された動物の輸入届け出制度では、感染症を媒介させるおそれのある動物等[哺乳類および鳥類等(その死体も含む)を対象]を輸入する者は、当該動物について輸出国で衛生管理を行い、感染症に罹っていない旨の衛生証明書を取得添付した上で、動物の輸出国・種類・数量等の輸入情報とともに厚生労働大臣に届け出ることが義務づけられた。これにより、わが国に輸入される動物の公衆衛生対策は、従来からの「狂犬病予防法に基づく犬等の検疫制度」、「感染症法に基づく輸入禁止動物の指定及び検疫制度」に加えて、本届け出制度によっても実施されることとなる(第56条の2関係:制度は公布から2年以内の政令で定める日から施行)。

2.輸入禁止動物(指定動物)の対象疾患の拡充

従来は、わが国にない1〜3類感染症を媒介するおそれのある動物に限って輸入禁止とすること、とされていたが、今次改正において対象疾病が拡充され、わが国にない4類感染症等についても対象とすることとされた(第54条:改正法の施行後、コウモリについては4類感染症のニパウイルス感染症、リッサウイルス感染症、狂犬病の侵入防止のため輸入禁止とされた)。

3.動物の調査規定の明示

今次改正では、感染症の発生状況等の疫学調査について規定する関連条文(第15条)が改訂され、都道府県知事(緊急の場合にあっては厚生労働大臣も)は職員を、感染症を媒介するおそれのある動物等の所有者等に質問させ、または必要な調査をさせることができることとされ、動物由来感染症対策のための動物調査規定の明文化が図られた。

4.獣医師等の責務規定の創設

従来から規定のあった医師等の責務と並び、獣医師等も感染症の予防に関し国および地方公共団体が講ずる施策に協力するとともに、その予防に寄与すべき旨の責務規定が創設された。また、動物等取扱業者(輸入者、販売者、展示者等)については、感染症の予防に関する知識・技術の習得、および動物の適切な管理等の措置を講ずべき旨の責務規定が課せられた(第5条の2)。

5.獣医師の届け出対象疾患の拡充

従来の規定では、獣医師に感染動物の届け出を求めることができる対象疾患は1〜3類感染症のうち政令で指定される感染症に限定されていたが、今般の改正では新たに4類感染症も対象に政令で指定できることとされた(第13条)。

6.その他の対物措置(動物、節足動物等も対物措置の対象)の対象疾患の拡充

従来の感染症類型が改められるとともに(本号特集参照)、対物措置を行える対象疾患の範囲が拡大され、これまでは1〜3類感染症に限定されていた対象疾患が1〜4類感染症に改められ、病原体に汚染された場所の消毒(第27条)、ねずみ族、昆虫等の駆除(第28条)、物件に係わる措置(第29条)、さらにその措置のために必要な質問および調査(第35条)が行えることとされた。

7.新たな動物由来感染症の追加

新たにレプトスピラ症、野兎病、リッサウイルス感染症、ニパウイルス感染症、サル痘、高病原性鳥インフルエンザ、E型肝炎が4類感染症として追加された。

厚生労働省健康局結核感染症課 中嶋健介

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