ホタルイカの漁期は毎年3月〜6月までで、この期間が基本的には旋尾線虫幼虫移行症発生のシーズンとなる。本症の発生件数は、ホタルイカを生食する頻度とともに当然ながらホタルイカの旋尾線虫X型幼虫(以後X型幼虫と略す。Xはローマ数字)の保有状況に左右される。そこで、最近5カ年にわたり、市販の生食用ホタルイカを対象としてX型幼虫保有状況を調査した。2000年と2001年はシーズン中に数回の検査を行い、2002年からはシーズンを通じて週1回の定期的な検査を実施した。ホタルイカは通常21尾を単位として販売されているので、定期検査は1回につきトレイ5枚分計 105尾の生ホタルイカについて実施した。ホタルイカは、胴部(外套膜)、内臓部、頭腕部の3つに分けて解体し、それぞれの部分をまとめて人工消化液で処理した。沈殿法によって検出された線虫は、顕微鏡下で形態学的にX型幼虫であることを確認した。
図1に2000年〜今年(2004年)にかけて、5年間にわたり実施した検査成績を示す。年ごとの検出率を見ると、調査を開始した2000年は、5月期だけの結果であるが調査期間全体を通じて最も検出率が高く、6〜8%であった。翌2001年は、3月、4月に都内で購入した生ホタルイカからはX型幼虫はまったく検出されなかったが、5月中旬に富山湾から取り寄せたホタルイカ678尾のうち7尾(1%)から検出された。2002年は、3月の2・3週は検出されなかったが、4月〜5月の漁期終了まで2%または3%の検出率で推移した。2003年は、3・4月に3%以下であったが、5月の1・4週には5%となった。本年は、シーズン初期の3月2週から早くも検出され、現在まで2〜6%の検出率で推移している。
この5年間に検査したホタルイカは総計3,429尾であるが、検出されたX型幼虫は147を数えた。別途に検査した結果から、ホタルイカ1個体のX型幼虫保有数は概ね1であるので、平均検出率は4.3%となる。また、ホタルイカの解体を同一操作で同一検査者が実施した検査の結果についてX型幼虫の部位別検出状況を見ると、内臓部からは76%(45/59)、胴部(外套膜)からは14%(8/59)、頭腕部からは10%(6/59)という結果が得られた。
以上のように、これまでの5カ年にわたるホタルイカのX型幼虫の調査からは、漁期内における保有状況の変動については明確な規則性は認められなかったが、年ごとの変動は見て取れる。この5カ年で検出率の最も高かった2000年には、旋尾線虫症の症例数が1995年以来最も多く記録されている(赤尾ら、本号3ページ参照)。また、ホタルイカを部位別に検査した結果、X型幼虫は内臓部の除去だけでは完全に取り除けないことも示唆された。これは、本症の発生を完全に予防するためには、ホタルイカの凍結処理を確実に実施することが重要であることを示している。
国立感染症研究所寄生動物部
荒川京子 森嶋康之 杉山 広 川中正憲