2003(平成15)年9月17日に異なる医療機関から幼稚園児2名の「O26による腸管出血性大腸菌感染症」の発生届が福祉保健センターにあった。これらの患者は同一幼稚園に通っている園児であった。翌日、同区内の他の幼稚園児からも同菌が確認された。両幼稚園は共通の給食施設を利用していることが判明し、食中毒と感染症の両面から調査を開始した。9月18日には福祉保健センターによる給食施設の立ち入り調査が開始され、当所でも幼稚園の職員および園児(患者)の家族検便、給食施設の検食およびふきとりの細菌検査を開始した。検査は菌検出者に対し陰性が確認されるまで行い、11月20日まで続いた。
今回の集団食中毒事例は、「横浜市衛生研究所健康危機管理対策実施要領」および「横浜市衛生研究所緊急時感染症検査体制マニュアル」に基づき行われた。また、本事例では「緊急時感染症検査体制マニュアル」で設定した検体処理数を大幅に超えることが充分予想されたため、今回初めて民間検査所に検査の一部を委託した。
検査の概略は以下のとおりである。9月18日から給食施設、患者家族検便等の検査を開始し、9月22日にA幼稚園の職員20名中4名より、B幼稚園の職員9名中2名よりO26:H11, VT1(以下O26)が検出された。給食施設の検食、ふきとりおよび従業員便からはO26は検出されなかった。多数の感染者が確認されたことから、9月25日、26日には福祉保健センターと幼稚園経営者が調整して、保護者への説明会を開催し、園児全員の健康調査と検便等の協力を依頼した。同じ給食施設を利用している幼稚園・保育園は、5区15園に及び、9月25日から当所でも園児全員を対象に便検査を開始した。また、10月3日からは民間検査所でも検査を開始し、のべ6,037検体(衛生研究所3,949検体、民間検査所2,088検体)の検査を行った。その結果、2区6園(A〜F幼稚園)で、449名[園児367名、園児の家族60名、園の職員20名、その他(友人)2名]よりO26が検出された。なお、民間検査所において分離されたO26は当所において生化学的性状、O:H血清型別およびVero毒素の確認検査を行った。
福祉保健センターの健康調査により、2003年9月10日〜14日に患者の発生がみられ、給食の摂食月日は9月8日で、摂食者数は3,476名、患者数は141名(発症率4.1%)であったことが判明した。感染者は市内6園に及び、それぞれ生活圏は異なっていた。なお、菌陽性者のうち園児の家族60名とその他(友人)2名は、給食を食べていないことから園児からの二次感染が疑われた。
O26の分離はマッコンキー寒天培地(無糖)に1%ラムノースおよびCEFIXIME TELLURITE(CT)サプリメントを添加した培地を用いた。園児、職員および家族から分離されたO26 の菌株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)を用いて制限酵素Xba Iによる遺伝子DNA断片多型性解析を行った。対照として、6月(幼稚園)と10月(養護学校)に分離された株についても併せて比較検討した。その結果、今回分離された株はすべて同一の泳動パターンを示したが、6月と10月に分離された株は泳動パターンが異なった。
本事例は感染者が市内6園に及び生活圏が異なっていること、発症日が9月10日〜11日に集中していること、共通食は給食であること、分離株は同一のPFGEパターンを示したこと等により、市内給食施設を原因とするO26による集団食中毒と断定された。
また、今回のような大規模食中毒発生時には、統一された依頼書(電子媒体等)の必要性、培地、診断用抗血清等の確保について、他の地研等との連携の強化および応援体制を構築しておく必要があると考える。
横浜市衛生研究所
武藤哲典 松本裕子 山田三紀子 鈴木正樹 北爪晴恵 藤井菊茂