施設で集団発生した腸管出血性大腸菌感染症−京都市

(Vol.25 p 147-147)

2003(平成15)年11月〜12月にかけて、京都市内の施設で腸管出血性大腸菌O157:H7の集団発生があったので概要を報告する。

11月18日〜19日にかけて、2つの医療機関から計2名の腸管出血性大腸菌感染症発生の届け出があった。保健所の調査により、患者らは同一の施設を利用していることが判明した。この施設の利用者は220人で、職員数は34人である。

京都市衛生公害研究所では、患者が11月13日に発症していることから、この施設の11月4日〜13日までの全給食材料(139件)の検査を実施し、また調理室のふきとり液(6件)、調理人の手指ふきとり液(3件)の検査と施設利用者および職員の検便(250件)を行った。その結果陽性となった者については家族の検便も実施した。

給食材料とふきとり液からは菌が検出されなかった。施設利用者で菌陽性であったのは、受診した医療機関で検出された者も含めて35人、職員は6人であった。家族は、検査対象者142人中19人が陽性であった。

菌陽性者のうち有症者は37人で、下痢、腹痛、血便などを呈した。幸い溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した患者はなく、比較的軽症であったが、二次感染は15家族に及んだ。初発患者は11月13日に発病、最後の患者は12月5日に発病しており、発生期間は1カ月近くに及んだ。

検出菌はいずれも大腸菌O157:H7であったが、Vero毒素については、医療機関により検出結果にばらつきがあった。

医療機関で検出された菌株のうち1株は入手できなかったが、入手できた菌株と当所で検出した菌株の計59株について、PCR法、RPLA法、イムノクロマト法でVero毒素(VT)の検出を行った。PCR法はタカラバイオ製のプライマーセットEVT, EVSを用いた。RPLA法はデンカ生研のキット「VTEC-RPLA」を、イムノクロマト法は和光純薬の「ベロトキシンテストワコー」を用いた。その結果、PCR法ではVT遺伝子1型、2型ともに陽性であったが、RPLA法とイムノクロマト法ではVT1 が明瞭な陽性、VT2はごく弱い反応が認められた。医療機関によってVTの報告にばらつきがあったのは、検出法により結果が異なったものと推測できる。

パルスフィールド・ゲル電気泳動のパターンは、59株ともほぼ同一で、そのうち4株だけが他の株とバンド2本の変異を示した。この4株は、同一家族の便から検出したものであった。

最後の陽性検出は12月7日で、12月5日に採取された家族検便であった。陽性者すべてについて治療後陰性確認のための検便を実施し、12月18日に関係者全員の陰性確認を終えた。

給食材料や調理場のふきとり液から菌が検出されなかったことと、施設利用者のグループ間で発生率に偏りがあったことから、集団食中毒ではなく、糞便を介した人→人感染の可能性が大きいと思われるが、感染源と感染経路の明確な特定はできなかった。

京都市衛生公害研究所微生物部門 福味節子 平野 隆 渡辺正義 三上佶彦

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る