修学旅行生(オーストラリア)の腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−福岡市

(Vol.25 p 147-148)

2003年12月、オーストラリアへの修学旅行に参加した福岡市内の高校生等が食中毒症状を呈し、計61名から腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)が検出されたので報告する。

2003年12月12日、市内医療機関から管轄保健福祉センターへ17歳女性(高校2年生)から腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)が検出された旨の届け出があった。

調査の結果、患者は12月2日〜8日にかけてオーストラリアへの修学旅行に参加しており、修学旅行に参加した生徒等419名のうち16名が12月7日から下痢、腹痛、嘔吐等の食中毒症状を呈していることが判明した。

当所において12月13日〜18日にかけて、2年生全員 396名、修学旅行に同行した教員15名、添乗員10名、菌陽性者の家族89名(市外分は除く)に対し検便検査を実施した。菌陽性者は医療機関を受診した3名を含めると2年生58名(15%)、教員2名(13%)、菌陽性者の家族(市外分は除く)1名(1.1%)であった。

修学旅行はAグループ(12月2日出発)、Bグループ(12月3日出発)の2つのグループに分散し、オーストラリアへ出発した。Aグループ、Bグループは一部重複する箇所は見受けられるものの、それぞれ別の日程により行動していた。旅行参加者の感染状況はAグループ37名(18%)、Bグループ23名(11%)であった。

同時期、福岡市での腸管出血性大腸菌O157の発生状況は、11月に2例の散発事例があったものの、他に本菌の流行はみられず、高校に限局された集団感染が疑われた。しかも、高校関係者のなかでも感染者は修学旅行に参加した高校2年生を中心に感染が拡大していたことから、管轄保健福祉センターは国立感染症研究所FETPに調査協力依頼を行った。

分離されたO157はPCR法にてすべてVT1&2を確認した。そのうち20株についてRPLA法によるVero毒素の定量(振盪培養後、上清をポリミキシンB処理)を試みた結果、VT1で256〜2,048倍、VT2で8〜128倍を示した。VT2で力価が低値だったことから、これらの菌株はVT2 バリアントを保有しているか、あるいはVT2遺伝子の部分的な突然変異の可能性もあると考えられる(現在調査中)。

無作為に抽出した5株の12薬剤「EM、NA、TMP 、OFLX、ST、KM、AMK、CP、NFLX、ABPC/SBT、FOM、CFZ」による薬剤感受性試験(K-B法)は同一パターン(EM、CPに耐性)を示した。また、グループが異なる任意の13株の制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の結果でも同一パターン(図1)が認められたが、2003年に日本で報告され、国立感染症研究所に搬入された他のO157 VT1&2株のPFGEパターンとは異なっていた。

当初、保健福祉センターでの調査による食中毒症状(下痢、腹痛、嘔吐等)を呈した者は16名であったが、本事例におけるFETPの症例定義(2003年11月25日〜12月23日までの間に、当該高校の関係者の中において、疑い例:腹痛かつ2回以上の下痢または腹痛の有無にかかわらず1回以上の血便を発症した者、確定例:疑い例かつ便検査で腸管出血性大腸菌が同定された者)により、菌陽性者、学校関係者に対してアンケートおよび聞き取り調査を行った。その結果、最終的に確定例は9名(Aグループ5名、Bグループ4名)にしぼられた。これら確定例の発症日は12月5日〜10日と確定例流行曲線(図2)が一峰性を示し、菌陽性者のうちグループが異なる任意(13名)のPFGEパターンが一致したことから単一曝露が疑われた。

感染リスクファクターを検討するため、症例対照研究調査を行った。症例に共通性のある行動因子は修学旅行が唯一の活動であった可能性が高く、他の学校内外での行動は統計学上有意に相関するものはみられなかった。修学旅行での喫食因子ではAグループが12月4日のアイスクリーム、12月5日のシリアルおよび牛乳、Bグループは12月7日のパイナップルが統計学上の有意差を認めたが、両グループは同じレストランを利用しておらず、原因食がAグループとBグループで一致していないこと、発症のピークが12月7日であることから、これらの喫食因子が感染原因の可能性は低いと思われた。

一方、修学旅行での行動に関して、症例すべてが12月4日(Aグループ)、5日(Bグループ)に同じ場所での動物(馬・羊・山羊・牝牛)との接触歴があった。逆に接触歴がないものは感染していない対照であったことから、動物との接触が危険因子の一つである可能性があると示唆された。

今回の事例は、調査の結果、海外における修学旅行中に感染が起きた可能性が高い。食品の取り扱い、環境、動物に関するさらなる調査により原因究明の可能性があると思われる。しかし、国外での調査は情報提供に限界があり、これ以上の原因究明は不可能であった。

福岡市保健環境研究所保健科学部門(感染症担当) 尾崎延芳 大庭三和子 武田 昭
福岡市東保健福祉センター 鈴宮寛子 永井 誠 添田有紀

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