保育園で発生した腸管出血性大腸菌O103:H2による集団感染事例−千葉県

(Vol.25 p 150-151)

事件の探知:2003年9月4日に、小児科医院から腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症(VT1、血清型不明)の届け出が管轄保健所にあった。患者は1歳の女児で保育園に通っていたことから、管轄保健所では同保育園における聞き取り調査を行うとともに、接触者の検便、保育園給食施設のふきとり、保存食、井戸水の検査を実施した。

検査方法:保健所におけるEHECの検査は、便をCT-SMAC(Oxoid)に直接塗抹し、37℃で培養後、コロニースイープ・ポリミキシンB抽出法1)によりVero毒素(VT)を抽出し、VET-RPLA(デンカ生研)を用いてVT産生試験を実施した。VTが確認されたCT-SMACからは再度コロニーを釣菌して生化学性状試験、VT産生試験、病原大腸菌型別用免疫血清(デンカ生研)を用いた血清型別を実施した。また、便以外の検体については、ノボビオシン加mECで増菌培養後CT-SMACを用いて分離培養を行い、便と同様の手順で検査を実施した。

分離されたEHEC菌株は、衛生研究所でVT産生性、血清型を確認するとともに、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施し、そのパターンをFinger printingII Ver3 (Bio Rad)を用いて解析した。解析条件2)は、48.5kbp〜630.5kbp間のデンシトメトリック・カーブを1%のトレランスでピアソンの積率相関係数により類似度を算出し、UPGMAによりクラスタリングを行った。

また、熊本県、山形県、福島県で2003年中にO103:H2(VT1) が分離されたとの情報を得たため、山形県および福島県からは菌株の分与を受け、PFGE解析を同様に実施した。熊本県からはPFGEパターンの送付をうけ、そのパターン解析を同様に実施した。

成績:聞き取り調査により、保育園において8月18日〜31日までの間に10名の園児が次々と下痢を起こしていたことが明らかとなったが、発症のピークは認められなかった。

EHEC検査の結果、患者および患者の接触者計12名からO103:H2(VT1)が、1名からOUT:H2 (VT1)が検出された。その内訳は、0〜2歳児クラス14名中6名(43%)、3歳児クラス12名中1名(8.3%)、4歳児クラス29名中2名(6.9%)およびEHECが検出された園児の2家族4名であった。患者の症状は下痢を主徴とし、溶血性尿毒症症候群(HUS)の発生は確認されなかった。また、EHEC陽性園児9名中4名は無症状者であった。保育園の保存食等からはEHECは分離されなかった。

O103:H2 (VT1) 12株およびOUT:H2 (VT1) 1株のPFGEパターンは、バンド1〜2本の違いが認められたが、その類似度は90%以上であった。一方、熊本県、福島県、山形県から分与を受けた菌株の類似度は90%以下であった(図1)。

考察:EHEC感染症は、血清型O157を原因とすることが多いが、その他の血清型を原因とする事例も毎年少なからず報告されている。2001〜2002年に検出されたEHECのうち、1,100株がO157以外の血清型であり、そのうち97株(8.8%)が、通常使用されることの多い市販の病原大腸菌型別用免疫血清では型別できない血清型によるものであった3)。本事例の原因であったO103も市販の病原大腸菌型別用免疫血清では型別できない血清型であったが、保健所の検査においてコロニースィープ・ポリミキシンB抽出法によるVT産生試験を血清型別に優先させて実施したことにより、迅速な事件対処が可能であった。

本事例ではO103:H2は患者および患者の接触者からのみ検出され、PFGEパターンの類似度も高かったが、保育園の保存食等からは検出されず、患者発生にピークがなく10日間以上続いたことから、本感染症の原因は同一の食品によるものではなく、保育園における接触で人→人感染が起きたものと推察された。また、他県のO103:H2とはPFGEパターンの類似性が低く、diffuse outbreakの可能性は否定された。

文 献
1)内村眞佐子、検査と技術 28:231-236, 2000
2)横山栄二、内村眞佐子、第8回腸管出血性大腸菌シンポジウム、2003
3)IASR 24:131, 2003

千葉県衛生研究所 横山栄二 内村眞佐子
千葉県柏保健所
土屋純子 鷹野サナエ 林 真砂子 村山美枝子 右島政子 中山千尋 日向 瞳
山東克己 岩崎 巧 高地刀志行

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