2004年1月17日、バングラデシュのKazipara村に居住する9歳の少年が、搬送先の病院に到着直後に死亡した。少年は3日前より発熱と進行性の神経症状を呈していた。その後、21日までの間にさらに、Kaziparaおよび隣のJuran Para村の6人の少年(2〜15歳)と28歳の女性(2歳患児の母)が同様の症状を呈した後、死亡した。
1月22日より調査が開始されたが、アウトブレークが確認され、5人の患者より抗ニパウイルスIgM抗体が検出された。また、2例からウイルスが分離されたが、このウイルスRNA は、1999年にマレーシアのアウトブレークの原因となったウイルスと95%の相同性をもっていた。
以前の流行調査と最初の8人の確定症例の臨床像から患者定義が作成され、サーベイランスが強化された。その結果、2月23日までに6つの郡内に時期的、地理的に集中する形で23人の患者(11人は検査確定例)が発見されたが、死亡は17人であった(致死率74%)。検査確定例である11人の臨床症状は、発熱(11/11)、頭痛(4/11)、嘔吐(5/11)、めまい(5/11)、意識障害(11/11)、昏睡(9/11)、局所的神経症状(3/11)、見当識障害/幻覚(4/11)、痙攣(8/11)、呼吸促迫(6/11)、咳/感冒(3/11)などであった。
調査では、マレーシアのアウトブレークで観察されたような、病気のブタやその他の病気のほ乳類との関係を確定することはできなかったが、少年達は森で夜明け前に果物を集めて食べていることから、フルーツコウモリ(Pteropodidae )が夜間に食した果物を食べて感染が起こったとの仮説が提起された。予備的な結果からは、オオコウモリ(Pteropus )がニパウイルスに感染している証拠が得られている。
4月19日、バングラデシュは3月13日〜4月14日の期間に、Faridpur地区で18人の死亡者を含む30人の患者が発生したことを報告した(16人は検査確定例)。患者のすべてがGuha Laksmipur村に住んでいるか、あるいは、この村の住民であり患者でもある一宗教指導者との接触があった。このアウトブレークでの感染伝播および拡大には、有症者との直接接触が関係したことが推察されている。
バングラデシュは2001年と2003年にもニパウイルスの流行を経験したが、今回は疑わしい症例が国内でより広く認められた。調査チームは、ニパウイルスのアウトブレークに対する特別委員会・基金の設置、全国のすべての病院において院内感染を防ぐための緊急対策の設定、病人を介護した後の手洗い、果物を食べる前の洗浄・皮むき・加熱の励行など、短期的な推奨事項を提起した。
(WHO, WER, 79, No.17, 168-171, 2004)