リジン脱炭酸試験陰性のSalmonella Enteritidisによる集団食中毒事例−京都市

(Vol.25 p 154-155)

はじめに:2003(平成15)年8月24日に町内で開催された地蔵盆に参加した数人が下痢・腹痛・発熱の症状を訴えていると8月26日の午前中に連絡があった。続いて昼過ぎには別の町内からも食中毒症状を訴える住民がいるとの届け出があった。調査の結果、2カ所の町内には同一飲食店が調理した「ちらし寿司」 107食が配達されており、この「ちらし寿司」を食べた2町内のうち54名が下痢・腹痛・発熱の食中毒症状を呈していることが判明した。この2町内が地蔵盆で提供した食べ物では「ちらし寿司」のみが共通食品であったことから、この飲食店を含めて調査を開始した。

症状および発症状況:初発症状は下痢が81名、腹痛35名、発熱20名、倦怠感10名で、以下頭痛、脱力感、嘔気、嘔吐、悪寒となっていた。下痢の症状は水様便が137名と多く、回数は10回以上が66名と最も多く、次いで3回が13名、5回および6回が12名の順であったが、1回の有症者も11名あった。嘔吐は3回までがほとんどであった。発熱は38℃〜38.5℃が34名と最も多く、38.5℃〜39℃までが23名、37.5℃〜38℃までが22名であった。また、39℃を超えていた有症者も25名いた。

検体の種類および件数:検査は有症者の便67検体、調理従事者の便3検体、調理従事者の手指ふきとり3検体、検食および残品20検体、施設の器具ふきとり11検体の合計104検体について細菌性食中毒菌の検査を実施した。

検査結果:有症者の便37検体、調理従事者の便3検体、検食および残品10検体の計50検体からSalmonella Enteritidisが検出された。S . Enteritidisの検出率は患者便で55%、調理従事者便は 100%、検食および残品で50%であった。

S . Enteritidisの検出された検食および残品10検体の内訳は、錦糸玉子2検体、タコ2検体、ご飯、れんこん、椎茸、アナゴ、パセリ、しょうが各1検体であった。またタコの1検体と錦糸玉子の1検体は飲食店から収去した検食で、残り8検体は町内に配達された「ちらし寿司」の残品であった。

病院で検出された菌株3件も含めた53検体のパルスフィールド・ゲル電気泳動の結果はすべて同じであった()。国立感染症研究所に依頼したファージ型別の結果はPT14b型であった。

考察:今回のちらし寿司による食中毒は、6町内の地蔵盆で提供された約200食とその他に提供された約40食の合計約250食、喫食者は233名、有症者数は173名と、大規模な食中毒事例であった。地蔵盆に里帰りしていた枚方市や四条畷市の家族にも有症者があった。

初発患者の発症時間は、最短で2時間と短い人もいたが、発症時間の平均は28時間であった。調理従事者等3名の検便全員から菌が検出されたこと、および検食や残品の多くからも菌が検出されていることから、調理従事者の手を介して多くの食品がS . Enteritidisに汚染されたと考えられるので、調理従事者の手指の洗浄等衛生管理の徹底が食中毒発生の予防に重要と思われる。すべてに共通する食材や具材は無く、調理従事者も同一食材を喫食していることから、菌に汚染された経緯も原因食材も断定できなかった。

検査は有症者便や食材の分離培地や確認培地で同様の発育性状を示す菌が多く検出されたことから、リジン脱炭酸試験陰性であったが、血清学的試験を実施し、同時に簡易同定キットによる同定試験も実施した。

今回分離されたS . Enteritidisはリジン脱炭酸試験が陰性で、通常のS . Enteritidisとは異なった性状を示した。本市でもS . Enteritidisによる食中毒事例は毎年発生しているが、リジン脱炭酸試験陰性のS . Enteritidisによる大規模な集団食中毒事例は初めてであった。

今回のような事例等も考えに入れ、典型的性状を示す菌のみではなく、生化学的性状等の変異している菌についても見落としのないよう注意して検査する必要があると考えられた。

また、今回は、一度に多くの弁当を調製するため、高野豆腐、錦糸玉子、椎茸、タコ等のちらし寿司の具材については前日から仕込みを行い冷凍保管して、当日ご飯と混ぜたり、ご飯の上に盛り付けたりして提供していた。

今回の事例は、弁当調製業者の能力以上の弁当を製造したことにより発生した可能性がある。

京都市衛生公害研究所
山野親逸 辻 尚信 竹上修平 原田 保 伊藤千恵 小石智和 丸岡捷治

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